2015年6月27日土曜日

映画『THE COCKPIT』text高橋 秀弘

「コクピットの窓から―」


がらんどうの様な部屋。壁にくっついたエアコンとポスターが奥に、手前にターンテーブルとキーボード、それと四角いボタンだらけの妙な機材があるぐらいだ。そこにゾロゾロ男達が集まる。室内だけれど帽子を被っている彼(OMSB)と室内だけれどパーカーのフードを被るもうひとりの彼(Bim)が機材のそばへ。おもむろにターンテーブルのスイッチを入れる。ブーンンン。「おおお、ノイズ出まくり」。

 OMSBとBimと仲間たちはヒッピホップ・アーティストで、どうやらこの小さなマンションの一室で1曲作るらしいのだが、始まりを告げる説明的なものはない。ヒップホップに疎い僕は最初、レコードの曲を聴きながら、とりとめない冗談、雑談を交わしてまたレコードをかける彼らの、どこからどこまでが曲作りなのかよく分からなかったが、黙々と手を動かし続けていたOMSBが、やがて身体でリズムを刻み始め、妙な機材の上のいくつものボタン(機材はサンプラー、ボタンはパッドというらしい)を連打してビートを作っている頃には、彼らの真剣に遊ぶノリが分かってきたし、それどころか曲が形となっていくその手応えも感じるようになっていた(身体が自然とリズムにのっていた)。ビート作りまでが1日目の夜のことで、あけて2日目はOMSBとBimのふたりでリリックを書き始め、その後レコーディングという流れが続く。

 64分の本編を見終わった時、あたかも自分は現場に赴き、全過程に立ち会ったのだと錯覚してしまうような感覚を覚えた。さらに不思議なことに、『THE COCKPIT』という映画そのものの制作現場も体験したような気がした。

 現場(現実の時間)・音楽(曲の時間)・映画(の時間)。この3つの時間の流れがある。軸になる現場に流れていた現実の時間を、64分なら64分にまとめるのが基本的な映画の時間(編集)だとすれば、『THE COCKPIT』はまとめるという作業から程遠い、そうではない時間を志向しているように思われる。ダイジェストではなく、現場で起きる面白い出来事、冗談、何気ないようでハッとする言葉、陽気なノリまでも、立ち上がって来るそれら瞬間々々を細大漏らさず見つめ、その変化を映し出そうとしているように思う。

 瞬間を大切にすれば、全体像はぼやけてしまうかもしれない。確かに曲の時間についてははっきりしない。例えばレコーディングのシーンでは、OMSBとBimがヘッドホンで聴いている音は観客には聴こえない。曲の仕上がりの進捗状況が分からない。しかし、音はなくても、彼らのラップを聴くことがまさに現場にいるライブ感となり、ラップを録音すれば、またひとつ曲が形になろうとしているのだと感じられる。

 定点観測のような固定カメラと手持ちカメラで撮った映像が、音楽的リズムによって大胆に軽やかに、それからRedBullでの乾杯、コップを受け取りテーブルに置くといった、日常動作のアクションつなぎによって端的に、編集されている。曲作りの現場の空気、動きの微妙な変化を切り取ったショットの積み重ねによって、映像のもつライブ感に、編集のリズムが加わり、新たな現場の時間が生まれる。それだけでなく、本編の64分以外の映らなかった時間をも意識させてくれる。本作はそのような時間の広がりをもっている。

 そして、新たな現場の時間と映画の時間は、ほとんど同期しているようかのようだ。『THE COCKPIT』は、“今、作られつつある映画”として、映画館での上映によって開始後64分にいよいよ完成するのではないかという感覚。つまりそれはライブといっていいかもしれない。

 現実の写しのようなリアルな日常を描き、スルーされがちな小さな事柄に物語を見出そうとする映画が生産される一方、本作は日常を描こうとするのではなく、日常を生きている人物たちの瞬間々々を撮ろうとしている。観念的でスタティックな日常なんかいらない、シンプルに目の前のラッパーたちの一挙一動を撮ることがつまり、生きている瞬間を捉えることであり、その瞬間の変化が日常でありリアルなんだ、と本作は教えてくれる。映画のキャッチフレーズは“KEEPIN’ IT REAL”(リアルに生きてる)。

 本作を映画館で見るということは、カメラレンズという窓を通して特等席からOMSBやBimのコクピットの中を少しだけ見ることである。本編の中で、リリックを考えるBimがOMSBに「半径5mのことを書く」といったことを口にする印象的なシーンがある。そう、才能ある彼らにも当たり前に半径5mの世界があり、彼らはその「半径5mの生活感覚とか実感を絶対に手放さずに*」生きている。きっと彼らのコクピットは、半径5mほどの大きさで、すべてはそこから始まり、手に入れた実感=エネルギーを燃焼させながら、来るべく瞬間々々めがけて、昼も夜も飛行しているのだろう。そのように思う。

 勿論、スクリーンという窓を通してこれまた特等席から『THE COCKPIT』というコクピットを見ることでもある。さて、コクピットの中の彼らは窓の外の風景をいつも見ている。その風景の中に観客の姿もあるだろう。自分はどうだ、コクピットの中にいるのだろうか。

 本編の後半、飛躍的なショットのつなぎがある。思いもよらない形で現れたそのクロース・アップショットに驚いた。そのつなぎ、そのショット、そのとき流れているラップ。驚き以上の面白さがあったけれども、果たしてその面白さが何なのか、2度見ただけでは知るに足りない。その実感を手放さずに、より確かなものにするために、また映画館に足を運ぶつもりだ。そうして『THE COCKPIT』の窓から三宅監督が見ていた風景を、自分も少しは見ることができるといいのだが。

*nobody掲載の「Do Good !!『THE COCKPIT』三宅唱(監督)&松井宏(プロデューサー)interview」から三宅監督の言葉を一部抜粋。(nobodymag http://www.nobodymag.com/interview/cockpit/

元気が出る度★★★★★
(text:高橋 秀弘)



映画『THE COCKPIT』
2014/日本/64分

作品解説
とあるマンションの一室で、ヒップホ­ップ・アーティストのOMSB、bimらが仲間と集まり、楽曲作りに取り組む姿と楽曲が生まれるまでのプロセスを記録した音楽ドキュメンタリー。本作のなかでしか聴けない曲­「Curve Death Match」が完成するまでの2日間の様子を追い、アーティストたちの日常と地続きの創作風景を映し出して行く。

出演
OMSB( SIMI LAB)
Bim( THE OTOGIBANASHI'S)
VaVa(SIMI LAB)
Heiyuu( CDS)
Hi'Spec( CDS)

スタッフ

監督:三宅 唱
撮影:鈴木 淳哉、三宅 唱
編集:三宅 唱
プロデューサー:松井 宏
宣伝:岩井 秀世
アートワーク:可児 優

公式ホームページ:http://cockpit-movie.com/

劇場情報:全国順次公開中!!
     横浜シネマリン 2015年7月11日(土)〜24日(金)
     ユーロスペース(アンコール上映) 2015年7月18日(土)〜31日(金)など

フランス映画祭2015〜オープニングセレモニー取材text大久保 渉

「フランス映画祭2015 オープニングセレモニー/ユニフランス代表イザベル・ジョルダーノ合同取材」


紺色のタイトなストライプスーツ。後ろで一つにたばねた髪。颯爽としたいでたちでありながら、その笑顔は柔和で、口にする言葉の一つひとつが優しく、温かみに溢れている。ユニフランス・フィルムズ代表 イザベル・ジョルダーノ氏。彼女を囲んだ合同取材が、2015年6月26日(金)パレスホテル東京にて行われた。

「母親がわが子を愛するのと同じように、出品作品のすべてを愛している」

取材中、フランス映画祭2015のラインナップにむけた想いをそう語ってくれたジョルダーノ氏。ずばり、全作品がお勧めとのこと。

ジュリエット・ビノシュ×クリステン・スチュワート、仏米豪華キャスト競演による、中年女性の葛藤と孤独を描いた『アクトレス ~女たちの舞台~』。美しい映像と共に、稀代の写真家の足跡を追った『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』。独自の視点や、アーティストであることを貫き通した、フランソワ・オゾン監督の傑作『彼は秘密の女ともだち』。他にも、ドラマ、コメディ、ラブロマンスと、様々なジャンルがにぎわうラインナップ。

こちらをまっすぐに見据えて、今映画祭の魅力を情熱的に語る彼女のすがたを見ては、全作品に対する期待がますます高まってきてしまう、そんな活気に満ちた合同取材であった。

その後、すぐさま有楽町朝日ホールへと移動。フランス映画祭2015 オープニングセレモニーに参加。応援団長として来日したエマニュエル・ドゥヴォスが壇上に上がった際には、ほぼ満席となった会場から割れんばかりの拍手が沸き起こる、なんとも盛大なオープニングセレモニーであった。

そして、オープニング作品『エール!』もまた大喝采のうちに終了。個人的には、上映後のティーチインイベントで登壇したルアンヌ・エメラ(主人公:ポーラ役)の天真爛漫さがとても可愛らしくて、まさに彼女が演じた役そのままだ、と激しく感動してしまったのである。

上映中のスクリーンから伝わってきた朗らかさが、彼女のもって生まれた明るさであることになんだかとても嬉しくなってしまい、10月の『エール!』公開時には必ず劇場で再見しよう、と強く思ったのである。
(text:大久保 渉)


「フランス映画祭2015 オープニングセレモニー」

日程: 6月26日(金)17:20~18:00
場所:有楽町朝日ホール        
登壇:エマニュエル・ドゥヴォス(フランス映画祭2015団長『ヴィオレット(原題)』出演女優)/アンヌ・フォンテーヌ(『ボヴァリー夫人とパン屋』監督)/アナイス・ドゥムースティエ(『彼は秘密の女ともだち』出演女優)/フェリックス・ド・ジヴリ(『EDEN エデン』出演男優)/スヴェン・ハンセン=ラヴ(『EDEN エデン』共同脚本)/オリヴィエ・アサイヤス(『アクトレス~女たちの舞台~(原題 シルス・マリア)』監督)/マルタン・プロヴォスト(『ヴィオレット(原題)』監督)/アブデラマン・シサコ(『ティンブクトゥ(仮題)』監督)/ジュリアーノ・リベイロ・サルガド(『セバスチャン・サルガド』共同監督)/グザヴィエ・ボーヴォワ(『チャップリンからの贈りもの』監督)/ルアンヌ・エメラ(『エール!』出演女優)/エリック・ラルティゴ(『エール!』監督) 全12名



「フランス映画祭2015」

【開催概要】
日程  : 6月26日(金)~29日(月)
会場  : 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長  : エマニュエル・ドゥヴォス(『ヴィオレット(原題)』主演女優)
前売券 : 5月23日(土)AM10:00~6月24日(水) チケットぴあ にて発売
公式URL: http://unifrance.jp/festival/2015/

主催:ユニフランス・フィルムズ
共催:朝日新聞社
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:ルノー/ラコステ
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC
特別協力:TOHOシネマズ/パレスホテル東京/全日本空輸株式会社
Supporting Radio : J-WAVE 81.3FM
協力:三菱地所/ルミネ有楽町/阪急メンズ東京
運営:ユニフランス・フィルムズ/東京フィルメックス
宣伝:プレイタイム



映画『エール!』2015年10月31日(土)から新宿バルト9ほか全国公開

2015年6月25日木曜日

映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』textくりた

「鉄と血と、怒れる女神の物語」 

※ネタバレしている箇所があります

Diorの広告塔としても有名なシャーリーズ・セロン。
177cmの長身にすらりとした長い手足、健康的な肌にブロンドヘア。 そして形の良いアーモンド型の目にはブルーグリーンの繊細な瞳がはまっている。 彼女の持つまばゆいばかりの美貌は人々を惹きつけ、魅了してありあまる。

 その彼女が美しい風貌をかなぐり捨てて、丸坊主&黒塗りヘッドの、片腕で挑んだ『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。
本作でのシャーリーズ・セロンは「美しい風貌」を捨てているかもしれないが、それでもやはり彼女は美しく、神々しかった。
砂埃と血とオイルにまみれ、身も心も傷だらけになりながらデス・ロードを爆走する彼女のその姿は誰よりも気高く、そして誰にも支配されない戦いの女神さながらだ。
正直言ってマックス役のトム・ハーディの影も薄くなるほどの苛烈さで、一体どちらが主人公なのか観るものを惑わせる。
いや、どちらかというと彼女が演じるフュリオサこそ真の主人公だといって差し支えないのかもしれない。

 「マッドマックス」シリーズの主人公・マックスの象徴である黒の革ジャケットとソード・オフ・ショットガン、そしてインターセプターは確かにハーディ演じるマックスの持ち物であったが、ショットガンは不発、インターセプターはほとんどウォーボーイズの1人に乗り回されて最終的にはフュリオサが運転するウォータンクに押しつぶされて大破する。

  マックスがマックスとしての象徴を1つずつ取りこぼしていく(ジャケットだけは取り返すが)その一方で、シャーリーズ・セロンが演じるフュリオサはどうか?

 まずフュリオサ(Furiosa)という名前。 これはポルトガル語で「激怒する」等の意味合いがあり、原題の「Fury Road(フューリーロード)」とはまさに、彼女そのものを表しているかのようだ。
また『マッドマックス2』でメル・ギブソン演じるマックスは物語後半で左目を負傷するのだが、本作のクライマックスシーンではフュリオサが右目を負傷し、同じような傷を負っている(トム・ハーディ=マックスの顔面は無傷)。
これは監督であるジョージ・ミラーが意図的に彼女をメル・ギブソン=マックスの対となるキャラクターとして考え、真の意味での主人公として位置づけていると言っても良いのではないだろうか。

 フュリオサはボロボロになりながら老女ばかりの「鉄馬の女たち」を率い、イモータン・ジョーの5人の妻たちを守りながら「怒れる道(Fury Road)」をひた走る。
自らの命を燃やし尽くさんばかりのその勇姿は、イモータン・ジョーの焼印よりも強烈に、観る者たちの胸に深く刻み込まれるに違いない。

 そして忘れてはいけない「鉄馬の女たち」の戦い振りも鮮烈かつエモーショナルだ。 劇中ではあまりのスピードの速さに状況を把握するだけで精一杯だが、鑑賞後のクラクラした頭の中で、ひとつひとつ彼女たちの戦いや表情を思い返すと、ふいに胸が詰まるのを感じる。
観終わった後に泣けてくるなんてそんな映画はいまだかつてなかった。しかもこんなハイテンションのバイオレンス映画で涙する日がくるなんて一体誰が想像しただろう?

 ハイスピードのカーアクションにド派手なクラッシュ、異形のキャラクターが破壊の限りを尽くすだけのバイオレンス作品かと思いきや(確かにそれも見物だが)、決してそれだけではない。
奪われてばかりだった女たちが反旗を翻し、そして自分以外の誰かを守るために立ち上がるこの映画は、女神が人々を再生へと導く神話なのである。

シャーリーズ・セロンの女神度:★×MAX!!!!!
(text:くりた)

関連レビュー:
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』text高橋 雄太
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 「マックスの亡霊たち」textくりた




『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

2015/アメリカ/120分

『マッドマックス』(1979)のシリーズ第4作。石油も水も尽きかけた世界。主人公は愛する家族を奪われ、本能だけで生きながらえている元・警官のマックス(トム・ハーディ)。荒野をさまようマックスは、資源を独占し恐怖と暴力で民衆を支配する凶悪なイモータン・ジョーに捕えられる。そこへジョーの右腕の女戦士フュリオサ(シャーリーズ・セロン)、配下の全身白塗り男ニュークスらが現れ、マックスはジョーへの反乱を企てる彼らと協力し、奴隷として捕われていた美女たちを連れ、決死の逃走を開始する。追いつめられた彼らは、自由と生き残りを賭け、決死の反撃を開始する!

出演
マックス:トム・ハーディ
フュリオサ:シャーリーズ・セロン
ニュークス:ニコラス・ホルト
イモータン・ジョー:ヒュー・キース=バーン
トースト:ゾーイ・クラビッツ

スタッフ
監督:ジョージ・ミラー
脚本:ジョージ・ミラー、ブレンダン・マッカーシー、ニコ・ラザリウス
撮影:ジョン・シール
美術:コリン・ギブソン
衣装:ジェニー・ビーバン
編集:マーガレット・シクセル
音楽:ジャンキー・XL
制作:ダグ・ミッチェル、ジョージ・ミラー、P・J・ボーデン
製作総指揮:イアイン・スミス、グレアム・バーグ、ブルース・バーマン

劇場情報:TOHOシネマズ、ユナイテッド・シネマ、MOVIX、ピカデリーの各劇場他にて絶賛公開中

2015年6月20日土曜日

フランス映画祭2015試写〜映画『ヴィオレット』text藤野 みさき

“女の醜さは大罪である。美しければその美しさに人は振り返り、醜ければその醜さに人は振り返る”

 オープニング。暗闇にエマニュエル・ドゥヴォスの柔らかな声が響き渡り、“Violette” と白く綴られた文字が静かに浮かび上がる。この強烈な言葉とともに、映画『ヴィオレット』は幕をあける。

 振り返ってほしかった。ただ、愛を求めていたから……。

 本作はフランス北部アラス出身の女流作家、ヴィオレット・ルデュックの半生を追った伝記映画である。映画は、戦時中、闇商売をして生計を立てていたヴィオレットが、小説家になることを志し、彼女の後の代表作である『私生児』が世に送り出されるまでの約二十年間にわたる生涯を、彼女を認め、支え続けた作家、シモーヌ・ド・ボーヴォワールとの交流を軸に描かれていく。

 「君はセラフィーヌについての映画を作っているけれど、ヴィオレット・ルデュックのことを耳にしたことはあるかい?」

 ヴィオレットとの出会いについて、監督のマルタン・プロヴォストは、本作の共同脚本家であるルネ・ド・セカッティに訊かれた当時のことをこう振り返る。「ルネは、彼がヴィオレットについて書いた伝記を贈ってくれました。伝記を読んだあと、私は彼女の小説『私生児』や『宝拾い』など数々の作品を貪るように読みました。そして私は彼に言ったのです。「僕らはヴィオレットを映画にしなければ!」と。そう述べる監督の強い思いそのままに、『ヴィオレット』は情熱の溢れる映画に仕上がった。

 主演をつとめるのは、フランスを代表する女優、エマニュエル・ドゥヴォス。彼女が本当にすばらしい。「ヴィオレットは彼女以外にはあり得ません。」と言い切った監督の熱意に、彼女は、充分過ぎるほどの見事な演技力で応えてみせた。

 エマニュエル・ドゥヴォスは、とにかく観る者を惹きつけて離さない、魔性の魅力をもった女優である。彼女の存在は年齢をも超越する力を持っている。ヴィオレットは、マドモアゼル、と呼ばれる時もあれば、マダム、と呼ばれる時もある。美女から醜女まで、彼女は変幻自在に変身できる魔法の呪文を知っている。その演技力は、いつだって、観るものを魅了してやまない。彼女は『キングス&クイーン』のノラのように、強く逞しく、涙を流しながらも、人生の困難に立ち向かう情熱的な女性が実に似合う。本作のヴィオレット役では、彼女は一段と激しく心をかき乱し、階段に座り込んでは「私は醜いのよ!」と泣き叫ぶ。人は美しくなければ愛されないのだろうか? 否、人間は決してそうではないはずなのに、愛を渇望するヴィオレットにとって、愛されるための第一の扉である外見の美しさほど切実なものはない。

 「母は、私の手を握ってはくれなかった。」

 ヴィオレットの処女作である『窒息』のこの一文は、私の心を粉砕してしまった。ヴィオレット・ルデュックという女性の心を表すのに、これほど胸にせまる表現はないと思う。そう、愛されなかった。私生児として生を享け、「自分は望まれない子だった。」と言う彼女にとって、長い人生を生きていくうえで、自分が世界の中心であるための必要な時間と愛情があまりにも欠落してしまった。愛されなかったゆえの、この埋めることのできない、どうしようもない虚しさと哀しみ。ヴィオレットにとって、その感情こそが創作の原点でもあった。

 この映画を思い出すとき、蘇ってくるものは、ヴィオレットが泣き叫んでいたり、嘆き悲しんでいる姿である。笑顔や安らぎ、そして喜ぶ姿を、私はどうしても思い返すことができない。映画の中で、彼女はいつも苦しんでいた。醜い自分は誰からも愛されないのではないか、という不安に。監督の「人生は彼女に優しくはなかった。」という言葉通り、愛を追い求め続けたヴィオレットにとって、人生は生半可なものではなく、その道のりは常につらさや悲しみが伴い、そして何よりも自分自身の劣等感と戦う以外の何者でもなかった。

 それでも、ヴィオレットは人生を駆け抜けた。たとえ、その足が血まみれになったとしても、痛みを堪えて、彼女は走り続けた。六十五年、長くたいへんな人生だったと思う。晩年、プロヴァンス地方の村フォコンで過ごしたとき、わずかでも彼女の心に安らぎがおとずれたことを願ってやまない。

エマニュエル・ドゥヴォスの熱演必見度:★★★★☆
(text:藤野 みさき)






映画『ヴィオレット』

Violette

2013年/フランス/139分/配給:ムヴィオラ

作品情報:『セラフィーヌの庭』でセザール賞最優秀作品賞に輝いた名匠マルタン・プロヴォストが、“ボーヴォワールの女友達”と呼ばれた実在の女性作家、ヴィオレット・ルデュックの半生を描いた感動作。ボーヴォワールに才能を見いだされ、パリ文学界に大きな衝撃を与えるものの、当時の社会に受け入れられず、愛を求める純粋さゆえに傷ついた彼女が、やがてプロヴァンスの光の中に幸福を見いだすまでを、生涯にわたり続いたボーヴォワールとの関係を中心に描く。背景となる40〜60年代、サルトル、コクトー、ジャン・ジュネが出入りする出版社ガリマールなど当時の文学界の様子や戦後パリの新しい文化の胎動も見所の一つで、ヴィオレットのフェミニンなファッションとボーヴォワールのシックなファッションとの対比も大きな魅力。ヴィオレットにはセザール賞ノミネート5回、2度の受賞に輝く名女優エマニュエル・ドゥヴォス、ボーヴォワールをサンドリーヌ・キベルランが演じている。

監督:マルタン・プロヴォスト(『セラフィーヌの庭』)
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、サンドリーヌ・キベルラン、オリヴィエ・グルメほか

© TS PRODUCTIONS – 2013

2015年12月、岩波ホールほか全国順次ロードショー




「フランス映画祭2015」
【開催概要】
日程  : 6月26日(金)~29日(月)
会場  : 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長  : エマニュエル・ドゥヴォス(『ヴィオレット(原題)』主演女優)
前売券 : 5月23日(土)AM10:00~6月24日(水) チケットぴあ にて発売
公式URL:http://unifrance.jp/festival/2015/

主催:ユニフランス・フィルムズ
共催:朝日新聞社
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:ルノー/ラコステ
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC
特別協力:TOHOシネマズ/パレスホテル東京/全日本空輸株式会社
Supporting Radio : J-WAVE 81.3FM
協力:三菱地所/ルミネ有楽町/阪急メンズ東京
運営:ユニフランス・フィルムズ/東京フィルメックス
宣伝:プレイタイム

2015年6月19日金曜日

映画『サンドラの週末』text加賀谷 健

「サンドラに魅せられて」


 映画は、ベッドに身を沈める一人の女性の寝顔を捉えたショットから始まる。携帯電話が鳴り出すと、その女性は気だるそうな表情を浮かべながらも起き上がり、電話を片手にキッチンで子どものためだというタルトの焼き具合を確認する。だが、その様子を捉えたロング・ショットはどこか不吉な雰囲気を漂わせている。女は、電話先の相手から職場を解雇されるかもしれないという報せを受け、再びベッドに身を沈める事となる。すると、家の中には夫らしき男性が慌ただしく駆け込んでくる。男は、鍵のかけられた部屋のドアをノックしながら「サンドラ」と何度もその名を呼び続ける。日常の中にふと訪れる環境の変化。ダルデンヌ兄弟の作品に相応しい導入部である。

 かくして「サンドラの週末」はこれからの生活を左右する重大な二日間となるのだが、ダルデンヌ兄弟はあらゆる映画的細部を「失業」という現代ベルギーがかかえる社会問題を暴き立てるために構築しようとはしない。専ら、一人の女性の魅力ある姿を捉える事に徹しているのである。

 例えば、サンドラが職場の同僚の住むアパートを訪れる場面。インターフォンを押したサンドラは、アパートの上層へ視線をむける。激しい日光に照らされた彼女の額からは汗が流れ落ちる。その一粒一粒、さらには汗を流す彼女自体が言葉では言い表せぬ感動を観る者に喚起する。サンドラがあちこちを歩き回ったり、水を呑んだり、ふとどこかへ視線をすべらせたりするだけで、我々観客の頭からは、時折、画面をちらつく現代ベルギーの「失業問題」が嘘のように消え去るのである。そう人に思わせる何かが「サンドラ」という美しい響きの名を持つフランス人女性にはあるのだ。

 実際、サンドラが訪ね回る同僚達は皆そろって、その美しい響きを必ず口にする。説得しに行った相手の反応の善し悪しに関わらず、決まって彼らは立ち去ろうとする女性に「サンドラ」と一声かけるのである。呼び止められた彼女は無論、声の主の方へ振り返るのだが、その瞬間の彼女の何気ないかに見える表情は、まるで時が止まり重力に逆らうかのようにして観る者の瞳に肉迫する。ことによったら、それは、この映画で最も感動的と言える瞬間かもしれない。

  だが、冒頭でタルトを焼き上げていた女性は結局の所、その職を失ってしまう。こうなるであろう事は初めから予想しなかったでもないが、映画の終わりで放浪者チャプリンさながらに遠くまでのびる道を進んでゆくサンドラの姿を見て、観客は何を感じるのだろうか。この映画に感動を覚えたのであれば、心の中で「サンドラ」と思わずその名を呟いて、いや叫んでしまうはずである。


サンドラの魅力度:★★★★☆
(text:加賀谷 健)




映画『サンドラの週末』

2014/ベルギー=フランス=イタリア/95分

作品解説
体調を崩し、休職していたサンドラ。回復し、復職する予定であったが、ある金曜日、サンドラは上司から突然解雇を告げられる。 解雇を免れる方法は、同僚16人のうち過半数が自らのボーナスを放棄することに賛成すること。 ボーナスか、サンドラか、翌週の月曜日の投票に向けて、サンドラが家族に支えられながら、週末の二日間、同僚たちにボーナスを諦めてもらうよう、説得しに回る。

出演
サンドラ:マリオン・コティヤール
マニュ:ファブリツィオ・ロンジォーネ
エステル:ピリ・グロワーヌ
マクシム:シモン・コードリ

スタッフ
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
助監督:カロリーヌ・タンブール
撮影監督:アラン・マルコアン(s.b.c)
カメラマン:ブノワ・デルヴォー
カメラマン助手:アモリ・デュケンヌ
編集:マリ=エレーヌ・ドゾ
音響:ブノワ・ド・クレルク
ミキシング:トマ・ゴデ
美術:イゴール・ガブリエル
衣装:マイラ・ラムダン=レヴィ
メーキャップ:ナタリ・タバロー=ヴュイユ
ロケーション・マネージャー:フィリップ・トゥーサン
ユニット・プロダクション・マネージャー:フィリップ・グロフ
スチール:クリスティーヌ・プレニュヌ

制作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、ドニ・フロイド
エグゼクティヴ・プロデューサー:デルフィーヌ・トムソン
共同製作:ヴァレリオ・デ・パロリス、ピーター・ブッケルト
製作協力:アルレッテ・ジルベルベルク

公式ホームページ:http://www.bitters.co.jp/sandra/

劇場情報:Bunkamura ル・シネマ、他、劇場にて公開中

2015年6月18日木曜日

フランス映画祭2015試写〜映画『ヴェルヌイユ家の結婚狂想曲』text大久保 渉

フランス人夫妻に訪れた、悲劇と喜劇―『ヴェルヌイユ家の結婚狂想曲』

冒頭、3つの結婚式のシーンが連続して写しだされる。娘を見守る、中年の夫婦。長女とアラブ人の結婚式。次女とユダヤ人の結婚式。三女と中国人の結婚式。段々とおごそかさが消えていく、夫妻の顔。そして最後に、しかめっ面。

「俺は差別主義者ではない」といいつつも、偏見、不満、いらだちばかりをつい口にしてしまう父。「みんな仲良く」と言いつつも、末っ子こそは生粋のフランス人と結婚してほしいと願ってしまう母。その末っ子がコートジボワール人の彼氏を婚約者として連れてきてしまったことで、一家の生活はますます混乱していくのであった。

それにしても、色々な問題が続々と噴出する。義父子のぎこちないコミュニケーション。心労がたたった母のうつ病。末っ子の結婚式をめぐって繰り広げられる、フランスvsコートジボワールの頑固親父対決。そんな夫にあきれ返る妻との、離婚の危機。娘やその夫たちも、なんやかんやと騒ぎ出す。

あまりにも人が多すぎて、多少ドタバタはしているものの、家族を大切にしたいという皆それぞれのおおらかさが、映画にのどかさと、朗らかさをもたらしてくれている。

多様な民族が混在するフランス社会。娘のパートナーたちは流暢にフランス語をしゃべり、社会にしっかりと根をおろしている。なので、今作は異文化との摩擦をとりたててはいるものの、結局のところはお互いちょっかいを出しあうネタとして、宗教、習慣、それぞれの人種偏見を引き合いにだしている。

それらは時に痛烈な皮肉として描き出されることもあるが、それもまたご愛嬌。彼らの民族的特徴は次第に一個の人間、キャラクター独自の魅力として目に映るようになってくる。だからどぎつい差別表現も、「おいおいっ」と笑って楽しむことができるのである。

結婚。新しい家族。奇抜な設定にこそ目を奪われがちだけれども、その根底には、家族の絆が試されるというドラマが広がっている。

お互い異なる者たち同士が、どうやって分かりあっていくのか。その異なりが大きければ大きいほど、交わり合ったときにはかけがえのない強い絆が生みだされるのではないだろうか。

アイロニカルなギャグに冷や冷やしつつ、家族のいさかいにハラハラしつつ、しかしそれもにぎわいとして屈託なく楽しめる。最後までヴェルヌイユ家の行く末に見入ってしまう。そんな、良質な移民系+家族系ドラマであった。

(text:大久保 渉)


フランス映画祭2015の他プログラムでは、『たそがれの女心』もお勧め。でも、『ヴィオレット』も良かった。ああもう、全作品観ていただきたいです!

【フランス映画祭2015〜個人的なお勧め】
『たそがれの女心』(…もう最高!):★★★★★
『ヴェルヌイユの結婚狂想曲』(…もともとコメディ好きなので):★★★★☆





映画『ヴェルヌイユ家の結婚狂想曲』

Qu’est-ce qu’on a fait au bon Dieu ?

作品情報:昨年4月にフランスで公開され、観客動員1200万人を突破した大ヒットコメディ。ロワール地方の町シノンに暮らすヴェルヌイユ夫妻は敬虔なカトリック教徒。三人の娘がユダヤ人、アラブ人、中国人と結婚し、せめて末娘だけはカトリック教徒と、と願っていた夫妻は、パリで暮らす末娘のボーイフレンドがカトリック教徒と聞いて安堵する。だが、末娘が連れて来たのはコートジボワール出身の青年だった…。宗教、異文化についての際どいギャグを交えつつ、多様な人種が混在するフランス社会の懐の深さを大いに感じさせる作品。

監督:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン
出演:クリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビー
2013年/フランス/97分/DCP/ビスタ/ドルビーSR
© 2013 LES FILMS DU 24 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – TF1 FILMS PRODUCTION

受賞歴
2015年 リュミエール賞 脚本賞受賞

© 2013 LES FILMS DU 24 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – TF1 FILMS PRODUCTION




「フランス映画祭2015」
【開催概要】
日程  : 6月26日(金)~29日(月)
会場  : 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長  : エマニュエル・ドゥヴォス(『ヴィオレット(原題)』主演女優)
前売券 : 5月23日(土)AM10:00~6月24日(水) チケットぴあ にて発売
公式URL: http://unifrance.jp/festival/2015/

主催:ユニフランス・フィルムズ
共催:朝日新聞社
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:ルノー/ラコステ
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC
特別協力:TOHOシネマズ/パレスホテル東京/全日本空輸株式会社
Supporting Radio : J-WAVE 81.3FM
協力:三菱地所/ルミネ有楽町/阪急メンズ東京
運営:ユニフランス・フィルムズ/東京フィルメックス
宣伝:プレイタイム

2015年6月17日水曜日

映画『サンドラの週末』text長谷部 友子

「サンドラという名の災難」

病ゆえに休職していたサンドラは、復職することになった矢先の金曜日、解雇を言い渡される。解雇を免れる方法は、16人の同僚のうち過半数が自らのボーナスを諦めること。ボーナスか、サンドラか。月曜日の投票に向け、週末の2日間サンドラは同僚たちを説得に回る。

サンドラという弱き者が困難に立ち向かう。ある意味、王道の物語なのだろう。しかし本当にそうだろうかとふと思った。説得という困難に彼女は立ち向かったが、16人の同僚にすれば、サンドラという災難におそわれる週末でもあったわけだ。

ある者は、妻の失業によりボーナスがなければ自分たちも生活ができないと言い、ある者は仕事で得る賃金だけでは足らず休日に別の仕事をしていることが判明し、ある者はサンドラを裏切るような形になっていたことに罪悪感を持っていた。サンドラの突然の訪問は、リトマス試験紙のように彼らの生活と価値観を浮き彫りにする。予期せぬ唐突さで問うてくるサンドラは、はたして弱き者なのだろうか。

サンドラは16人に等しく、ボーナスを諦め自分を選んでほしいと求めるが、16人はそれぞれの対応をする。居留守を使い話すら聞こうとしない者、泣いて謝る者、サンドラのみが理由ではないものの離婚を決意してまで彼女に味方しようとする者。そう、理由はいつだって問うてくる相手ではなく自分の側にある。サンドラという災難は常に訪れる。それはある者にとっては厄災であり、しかしある者にとっては好機ですらある。凡庸とみえる日々の生活の中、多分私たちはいつも問われている。あなたはどんな選択をし、いかなる人間であるかと。サンドラは彼らのその選択を炙り出していく。


サンドラの唐突度:★★★☆☆
(text:長谷部 友子)


映画『サンドラの週末』


2014/ベルギー=フランス=イタリア/95分

作品解説
体調を崩し、休職していたサンドラ。回復し、復職する予定であったが、ある金曜日、サンドラは上司から突然解雇を告げられる。 解雇を免れる方法は、同僚16人のうち過半数が自らのボーナスを放棄することに賛成すること。 ボーナスか、サンドラか、翌週の月曜日の投票に向けて、サンドラが家族に支えられながら、週末の二日間、同僚たちにボーナスを諦めてもらうよう、説得しに回る。

出演
サンドラ:マリオン・コティヤール
マニュ:ファブリツィオ・ロンジォーネ
エステル:ピリ・グロワーヌ
マクシム:シモン・コードリ

スタッフ
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
助監督:カロリーヌ・タンブール
撮影監督:アラン・マルコアン(s.b.c)
カメラマン:ブノワ・デルヴォー
カメラマン助手:アモリ・デュケンヌ
編集:マリ=エレーヌ・ドゾ
音響:ブノワ・ド・クレルク
ミキシング:トマ・ゴデ
美術:イゴール・ガブリエル
衣装:マイラ・ラムダン=レヴィ
メーキャップ:ナタリ・タバロー=ヴュイユ
ロケーション・マネージャー:フィリップ・トゥーサン
ユニット・プロダクション・マネージャー:フィリップ・グロフ
スチール:クリスティーヌ・プレニュヌ
制作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、ドニ・フロイド
エグゼクティヴ・プロデューサー:デルフィーヌ・トムソン
共同製作:ヴァレリオ・デ・パロリス、ピーター・ブッケルト
製作協力:アルレッテ・ジルベルベルク

公式ホームページ:http://www.bitters.co.jp/sandra/

劇場情報:Bunkamura ル・シネマ、他、劇場にて公開中

2015年6月14日日曜日

映画『サンドラの週末』text高橋 雄太

※文章の一部で、結末に触れている箇所があります。



「和をもって貴しとなす」

ロードムービーであり選挙映画であり足し算映画である。

金曜日、サンドラ(マリオン・コティヤール)は解雇の危機にあった。
月曜日にサンドラの解雇に関する同僚たちの投票が行われる。解雇を免れるためには、同僚の過半数から支持を集めなければならない。会社の同僚たちに、ボーナスかサンドラの雇用かの二択を選んでもらうのだ。
彼女は、支持を取り付けるため、週末を使って同僚たちを訪問する。

集めるのは票であり、人の善意である。その「集めること」の裏に、実は「分けること」がある。
1000ユーロのボーナスを放棄してサンドラを復職させることは、富の分配と言える。票を集めることは、富の分配と善意の積分である。

サンドラは一人で同僚の家に向かい、同僚と会う。そして、また一人で去っていく。この一連の過程が繰り返される。
ここで人数を数えれば、一人、複数(二~三人)、一人。このように、同僚の票を集めることは、人を集めることと対応している。
カメラはこの人数を正確に記録する。歩くときサンドラは一人という孤独な画面。サンドラが同僚と会うとき、複数の人が同じフレーム内に収まる。

本作は集めることと分けることのせめぎ合いの作品でもある。
分けることは、冒頭のタルト、ピザ、富の分配、サンドラが一錠ずつ服用する薬に表れている。
また、サンドラは薬を大量に集めて服用し、自殺を図る。分けるべきものを集めてはいけない。
集めるべきは、やはり人なのだ。

月曜日の投票後、サンドラの反対者は画面から退場し、賛同者は残る。サンドラが八人の賛同者とハグする様子が、やはりワンショットで捉えられる。
一人から二人、二人から三人、三人から九人へ。サンドラが作る人の和は、画面内の人の足し算の和として表現される。
文字通り、人の足し算と友情の「和」である。
結局、失業してしまったサンドラは、再び一人になって歩く。結果だけ見ればサンドラの敗北だ。
だがこの映画では、一人で歩くことは、他の人と集まるための動作である。
最後のサンドラの向こうに人の絆がある。再び人は足し算される。そうして「和」が生まれるはずだ。

★★★☆☆
(text:高橋 雄太)






映画『サンドラの週末』

2014/ベルギー=フランス=イタリア/95分

作品解説
体調を崩し、休職していたサンドラ。回復し、復職する予定であったが、ある金曜日、サンドラは上司から突然解雇を告げられる。 解雇を免れる方法は、同僚16人のうち過半数が自らのボーナスを放棄することに賛成すること。 ボーナスか、サンドラか、翌週の月曜日の投票に向けて、サンドラが家族に支えられながら、週末の二日間、同僚たちにボーナスを諦めてもらうよう、説得しに回る。

出演
サンドラ:マリオン・コティヤール
マニュ:ファブリツィオ・ロンジォーネ
エステル:ピリ・グロワーヌ
マクシム:シモン・コードリ

スタッフ
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
助監督:カロリーヌ・タンブール
撮影監督:アラン・マルコアン(s.b.c)
カメラマン:ブノワ・デルヴォー
カメラマン助手:アモリ・デュケンヌ
編集:マリ=エレーヌ・ドゾ
音響:ブノワ・ド・クレルク
ミキシング:トマ・ゴデ
美術:イゴール・ガブリエル
衣装:マイラ・ラムダン=レヴィ
メーキャップ:ナタリ・タバロー=ヴュイユ
ロケーション・マネージャー:フィリップ・トゥーサン
ユニット・プロダクション・マネージャー:フィリップ・グロフ
スチール:クリスティーヌ・プレニュヌ

制作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、ドニ・フロイド
エグゼクティヴ・プロデューサー:デルフィーヌ・トムソン
共同製作:ヴァレリオ・デ・パロリス、ピーター・ブッケルト
製作協力:アルレッテ・ジルベルベルク

公式ホームページ:http://www.bitters.co.jp/sandra/

劇場情報:Bunkamura ル・シネマ、他、劇場にて公開中

2015年6月12日金曜日

映画『サンドラの週末』text今泉 健

「直接民主主義の行方」

 民主主義では多数決という意思決定方法をとることが通例である。多数決とは「会議で多数者の意見によって議案の採否を決する方式」とある。僅かな差でも意思決定がされてしまうリスクは否めないが、民主主義下では結果と同じくらいその過程が重要視される手法となる。お互い議論をしながら時に信頼関係が醸成されることもある。また、民主制には間接、直接と2種類ある。国レベルではほとんど間接制で、直接制の採用はないが、先日の大阪都構想の住民投票が1例として挙げられる。一人ひとりが直接意思決定に参加する制度である。
 
 体調不良で休職中のサンドラ。復職が見えてきた矢先の金曜日、突然のリストラ宣告を受ける。同僚の計らいで週明けの月曜日の職場全員による投票まで結果が持ち越されたものの、サンドラの復職か彼ら自身のボーナスかという非情な二者択一が条件となった。夫とは共働き、子供が二人、マイホームを手に入れた直後だったため、週末を使って同僚たちを説得することになる。まだ、体調が万全でなく悲観的で自信喪失気味のサンドラを夫のマニュが支える。話の舞台はベルギーだが、EUの本拠地がある国でこんな解雇がまかり通ってしまうのかと不思議だ。ただ、条件は苛酷だが職場全員の投票での多数決、直接民主制的手法が落としどころなのはさすが民主主義の伝統国。たぶん日常的なのだろう。
 
 サンドラは、「皆に嫌われた挙句にクビになりかねない」という大きなリスクを抱えながら、それでも「ボーナスを放棄して、清き1票を私に」という苛酷な選挙運動に乗り出した。影響力のありそうな人からとか効率も考えず、愚直なまでに1人づつ説得する。これは彼女と支える夫の「勇気」以外の何物でもない。蛮勇にさえ見えるこの「勇気」は同僚達の心を動かす。直接の働きかけが効果的なのは洋の東西を問わないようだ。そして気力を振り絞り頑張った彼女は「選挙活動」を始める前は思いもしなかったご褒美を得ることになる。この尊さが清々しい鑑賞後感の源である。
 
 もちろん週末の勇気だけで何かが為せるわけではなく、今までの行動が物をいう。まさに情けは他人の為ならずである。しかし必ず白黒がつく苛酷な状況があったからこそ、勇気を奮うことになり、ご褒美にありつけたとも言えるのだ。まさにこれこそ民主主義社会における童話ではないだろうか。ダルデンヌ兄弟に拍手。

サンドラの勇気度:★★★★☆
(text:今泉 健)



映画『サンドラの週末』


2014/ベルギー=フランス=イタリア/95分

作品解説
体調を崩し、休職していたサンドラ。回復し、復職する予定であったが、ある金曜日、サンドラは上司から突然解雇を告げられる。 解雇を免れる方法は、同僚16人のうち過半数が自らのボーナスを放棄することに賛成すること。 ボーナスか、サンドラか、翌週の月曜日の投票に向けて、サンドラが家族に支えられながら、週末の二日間、同僚たちにボーナスを諦めてもらうよう、説得しに回る。

出演
サンドラ:マリオン・コティヤール
マニュ:ファブリツィオ・ロンジォーネ
エステル:ピリ・グロワーヌ
マクシム:シモン・コードリ

スタッフ
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
助監督:カロリーヌ・タンブール
撮影監督:アラン・マルコアン(s.b.c)
カメラマン:ブノワ・デルヴォー
カメラマン助手:アモリ・デュケンヌ
編集:マリ=エレーヌ・ドゾ
音響:ブノワ・ド・クレルク
ミキシング:トマ・ゴデ
美術:イゴール・ガブリエル
衣装:マイラ・ラムダン=レヴィ
メーキャップ:ナタリ・タバロー=ヴュイユ
ロケーション・マネージャー:フィリップ・トゥーサン
ユニット・プロダクション・マネージャー:フィリップ・グロフ
スチール:クリスティーヌ・プレニュヌ
制作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、ドニ・フロイド
エグゼクティヴ・プロデューサー:デルフィーヌ・トムソン
共同製作:ヴァレリオ・デ・パロリス、ピーター・ブッケルト
製作協力:アルレッテ・ジルベルベルク

公式ホームページ:http://www.bitters.co.jp/sandra/

劇場情報:Bunkamura ル・シネマ、他、劇場にて公開中

2015年6月11日木曜日

『デッド・シティ 2055』 ~ 放課後映画クラブ(座談会) ~

【『デッド・シティ 2055』のストーリー】

企業王ジュリアン(ブルース・ウィリス)は、現実世界に飽き足らないリッチな顧客の欲望を叶える、治外法権で享楽的なリゾート都市“VICE(ヴァイス)”をオープンさせる。そこでは人間と見間違うほどの精巧なレプリカントを相手に殺人や暴力行為、ドラッグ、レイプといった己のダークサイドの快楽を体現できるのだ。しかしそのせいで現実世界の犯罪も急上昇していた。富裕層たちは思うがままに勘違いするのだ、何故ヴァイスで許されることが現実世界では非合法に当たるのかと。事件を担当する刑事ロイ(トーマス・ジェーン)は、ヴァイス閉鎖こそが犯罪撲滅の解決策と考えていた。ある日レプリカント・ケリー(アンビル・チルダーズ)に不具合が生じ、毎夜消去されるはずの恐ろしい過去の記憶が残りフラッシュバックされる。自我に目覚めた彼女はロイの助けで現実世界へ脱走し、そこで自らの過ちを悔やむレプリカント開発者エヴァンに出会う。ヴァイス壊滅を熱望する3人は、ジュリアンの元へ真の現実世界を取り戻す戦いに乗り込んでいく……。



2015年6月某日
〜有楽町ビル サンマルクカフェにて〜
【 参加者:今泉小川栗田常川 (五十音順、敬称略) 

※この記事は『デッド・シティ 2055』の結末に触れている箇所があります

小川 ) じゃあこれから『デッド・シティ 2055』について座談会ということで…(鑑賞会)お疲れ様でした

今泉)お疲れ様でした

栗田)お疲れ様でした

常川)お疲れ様でした

 ) えーっと『デッド・シティ』ということで、僕はブルース・ウィリスは主役で、悪党をやっつけるっていうのを想像していたんですが、まったく違う展開でした

今 ) 端役でしたね

) まぁどうでしたか?っていうのを…アレですけど(聞きたいなと)

今 ) 笑

) 笑

) 笑

 ) まずケリー(アンビル・チルダーズ演じるレプリカント)っていう人は『ブレードランナー』(※1)的な何かかと…

公式HPより引用©2014 GEORGIA FILM FUND TWENTY-EIGHT,LLC 


 ) 「あ、これは」、みたいな、なので若い人が、映画好きの若い人が、こういうの撮ろうかな、ってそういう映画なのかなぁと。(今泉に向かって)どうですかね?

今 ) 話としてはなんか、『ロボコップ』(※2)みたいだなと。記憶の断片が残ってて、色々する、みたいな…

 ) ああー、そうそう

今 ) 今やってる『チャッピー』(※3)とかにも近いかなと

 ) (栗田に向かって)どうですか?

 ) なんかでも、人工知能とかあんま関係ないんじゃないかって感じもしましたけど

 ) あー、最後、誰が人工知能かもわからないような感じもしましたし…常川君は?

 ) ……

 ) 無言です(笑)

今 ) 笑

 ) 笑

 ) いや、最初の、ブルース・ウィリスの登場シーンがなんか、すげぇ、これは…「これは…」って感じでしたね…(笑)

 ) プロモーションビデオみたいな(笑)

 ) 銀行強盗とかマフィアみたいなとことか…

 ) あれこそ、バットマンの『ダークナイト』(※4)の始まりみたいな、あっけなくみんな死んじゃうみたいな感じかと。したら、いきなり“ウィーン”って(ブルース・ウィリスが)出てくるから「おや?」って思いましたよね(笑)、そこで

今 ) 笑

 ) 笑

 ) 笑

 ) あとほとんど白人なんですね、ほとんど外国人が出てこない。警察もほとんどみんな男で白人。で、「俺の銃でかいだろ?」って自慢してますけど。まぁ…そういう事ですよね(笑)

今 ) 笑

 ) 笑

 ) 笑

 ) 出てる女の人も金髪の人。白人の、セクシーな女の人しか出てこないっていう(笑)。こういう設定もはっきりしてますね

 ) 観てていつの時代か、よく分からなくなってきますね

 ) そーなんですよ。で、ここに(映画タイトルを指差して)「2055」って書いてあるんですよね。先入観でみると、「えっ、こういう2055年ですか?」って感じだよね(笑)

 ) なんかパソコンとかも古かったですよね

 ) あー

 ) あ、そうそう。だから「今」なんですよね。ほとんど「今」

 ) ぜんぜん未来感ない

 ) ぜんぜん進化してない

 ) それがわざとなのか、なんなのか…でも逆にそれがけっこうリアリティを持っていて、あの、微妙な年代なんですよね。2100年とかだったら違うんでしょうけど…2055年て中途半端なんですよね

 ) 40年後ですね

 ) そうそう。もしかしたらこういう未来もありうるんじゃないかっていう。でもなんとなくもっと高度化された未来っていうのを、みんなもそうだと思うんですけど、僕は想像してて。だから(もっと高度に進化していると考えて観ると)パソコン古いですよね、あんなの、変わってないじゃん

 ) わざわざ古いままにしなくてもいいんじゃないかっていう

 ) モニターがいっぱいある(だけ)っていう。そんなに、特に、2055年感は一切ない

今 ) システムが火を噴くとかねぇ(笑)。あんなのあり得ないでしょ

 ) ショートしちゃってる(笑)

今 ) そうそう、ショートして火を噴くとかないでしょう

 ) それでシステムの復旧に時間が掛かるっていうのもちょっとなぁっていう…色々苦しいところはありつつ、そういうもんなのかなぁって

 ) そうですね

 ) これって一応、何やってもイイみたいな場所なんですよね?

 ) あ、そうそう。「VICE(ヴァイス)」っていうその…

今 ) 警察がいないんですよね

 ) 無法地帯なわけなんですよね、要するに

 ) え、あのホテル内だけがってことじゃなくて?

 ) あれは会社兼ホテル兼…あの一角がブルース・ウィリスの城なわけですよね、あの一角が

公式HPより引用©2014 GEORGIA FILM FUND TWENTY-EIGHT,LLC


 ) で、警察も買収して、無法地帯なわけですよね。だから何やっても許されるわけですよね

 ) あの(夜の)12時になったら家帰れみたいなの、あれなんスか?

 ) フフッ(笑)

 ) え?何それ?

 ) 家帰れっていうか、あれ記憶があの…

今 ) 殺されちゃった人の記憶がリセットされちゃう

 ) そう、レプリカントの記憶だけはリセットされちゃう

 ) あー、そうそう、設定をね

 ) でも12時って早くね?って思いますよね

 ) 12時で再起動ってことですね

 ) 無法地帯感ぜんぜん無かったですね。最初はそこをもっと見せるべきだった

 ) もっと、やるならってことですよね。それを完璧にブルース・ウィリス筆頭の社員たちがギリギリの所で押さえているという…

 ) や、最初にもっと楽しそうな感じを見せた方が(良いかなと)…

 ) あ、楽しげな感じね、テーマパーク的な?

今 ) リゾートな感じではなかったね

 ) そういうんじゃなかったですね。もっと欲を吐き出す的な、快楽を超えた…あと殺人もなんでも良いっていう

 ) そういう意味では『トゥモローランド』(※5)と同じじゃないですか

 ) あー

 ) おー!

 ) なんでも叶うみたいな

 ) うんうん

今 ) あ、『コードネーム:プリンス』(※6)ってやつ…

 ) えっ?この監督の前作ですか?どういう…?

今 ) ヒューマントラスト(※7)の「未体験ゾーン」(※8)でやってたんで。それもブルース・ウィリスがちょい役で出てる

 ) へぇー

 ) へぇー、仲良いのかな?

今 ) それで出て貰ったんじゃないですかね(笑)

 ) どーゆー話なんですか?

今 ) どういう話だったかな?えーと、殺し屋がなんか…えーっとね、(観てから時間が)経ってるから…

 ) 同じ感じなんですか?近未来的な?

今 ) いや、近未来じゃなくて、殺し屋が出てきて…話はちょっとド忘れしました、すみません(笑)

 ) まぁ、でもブルース・ウィリスとはそれで関係があると…

 ) そういう(未体験ゾーン的な)1本であるはずですよね。なんで普通に劇場公開なんだっていう感じなんですけど…

 ) ああ、そうだよねぇ。テレビシリーズの番組のああいうテイストみたいに感じましたけど。シーズン何とか、あるじゃないですか?

今 ) ?

 ) ?

 ) ?

 ) …まぁ見事に続編が出そうな感じでしたけど…

 ) ああ、最後の…

今 ) 最後、目を覚ますところ

 ) 「ジェダイの逆襲」(※9)じゃないけど、「レプリカントの逆襲」みたいな。そういう映画始まるんですか?

 ) 始まるんスか?

 ) わかんない…

 ) ぜんぜん期待感ないんですけど(笑)

今 ) 笑

 ) そうですね……あとクローンじゃなくて、レプリカント?

今 ) レプリカントっていうね、人造人間ね

 ) えっと、『ブレードランナー』?

今 ) 『ブレードランナー』かな?

 ) それもレプリカント?

今 ) うん、レプリカントですよね

 ) クローンじゃないんですよね

 ) 結局レプリカントの逆襲っていう話じゃなかったですかね?

 ) あ、途中からそうなりましたね

 ) だから逆襲は終わったんじゃないですかね

 ) あ、逆襲終わったんだ。あ、わかった、じゃあ、今度は「レプリカントの逆襲」じゃなくて人間の…

 ) あ、なるほど、『猿の惑星』(※10)みたいな?

 ) そうそう、今度はそうだよね。間違ってた。最初は人間と…組織と警察って言うのがあって、(その人たちが)レプリカントを押さえてたのが、レプリカントが逆襲して…で、実はまだ(逆襲したのに人間が)生きてた、っていう感じでね?

 ) 結局あいつ(ブルース・ウィリス)人間なんですか?

 ) いや、それは分からないんですよねー

 ) でも最後に撃たれてたよね、思いっきり

 ) こいつ(トーマス・ジェーン演じる刑事)は人間ですか?

公式HPより引用©2014 GEORGIA FILM FUND TWENTY-EIGHT,LLC

 ) これは人間。刑事役はね。でも一番面白かったのはラストシーンで、あの、ケリーが…(笑)。最後オールバックになってアップグレードバーションで出てきて…

 ) そこ、むちゃくちゃ面白かった(笑)

 ) 分かりやすい(笑)

今 ) 笑

 ) 「そこですか」みたいなね(笑)。スーパーサイヤ人的な感じで(笑)

今 ) 笑

 ) 笑

 ) 笑

 ) その組織をやっつけたら、最後、(スクリーンの)画面の端っこにいた女の人が、男をボコボコにしてるっていう…あれはもうゾンビすよね…笑っちゃいました(笑)

 ) レプリカントの逆襲でしたね…!

 ) (今泉に向かって)どうですか?

今 ) いや、なんかぜんぜんリゾートとか楽園に見えなかったから…

 ) そういう意味で「デッド・シティ」

 ) 邦題なんですね、これ

 ) そうですね。なんでデッドシティかって…そのまんまでしたね。(原題の)“VICE”ってどういう意味なんですかね?(※11)

 ) どういう意味なんでしょう?

 ) (キャッチコピーを見て)リゾート都市って書いてありますよ、ここには。「あなたの欲望をすべて叶える近未来都市ヴァイス」

今 ) 『マイアミ・バイス』(※12)のバイス?

 ) (常川に向かって)どうですか?

 ) うーん、なんか、この人…ケリーが、なんか(ある役の)元奥さんみたいな感じで…で、(自分の昔の)写真見て「コレ私?」みたいなことやってたじゃないスか?

 ) うんうん

 ) なんか…顔ちげーなって…

 ) 違った?(笑)

 ) あ、顔が違う?

 ) いや、なんか…(写真に写っている顔は)化粧してない顔みたいな。そこら辺の記憶はあるんだなって。そこら辺の記憶まであるのがちょっとよく分からなかった

 ) 奥さんは、(レプリカントの)デザイナー?の奥さんで、死んだんでしょ?殺されたか死んだかで。(奥さんのことを)忘れられなくて、個人的な趣味で作ったんでしょ?奥さんを。それがこれの設定でしょ?それ、まるまる新しいコピーロボットなんでしょ?レプリカントって。

 ) あと、なんか最初の方で本物の人体の皮膚使ってるみたいなこと言ってたから、だから奥さんそのまま使ったのかな?と思って、結構えぐいことしてるなって

 ) それヤバイですよね。機械じゃないって言う

 ) そこら辺の細かい設定もよく(どうなってるのか)わからなかったですけどね

 ) 生身の人間に人工知能埋め込んだのかな?どうなんでしょう?記憶が残ってるっていうのもねぇ

今 ) あと車の上に(2階以上の高さから)落ちても死なないのに、何で首絞められたくらいで死ぬのかも分からなかった

 ) 確かにあれは、生身の人間では絶対あり得ないですね

 ) あとみんな怪我しないですよね

 ) あ、そうそう、血が出ないっていう

今 ) 血が流れてない

 ) レプリカントは生き返るから殺してもいいみたいな括りなんスか?

 ) あ、法律がってこと?この人(ブルース・ウィリス)のリゾート都市VICEの中ではオッケー

今 ) レプリカントには何してもイイと

 ) で、(VICEの)外に出たら、逆に犯罪を犯さないだろうってことでVICEを作ったんでしょう?VICEの中は無法地帯だけど、外に出たら罪悪感を知るから…だからVICEは良いもんだって思って作ったけど…(刑事は)ぶざけんなっていうね。結局、でも外に出ても…殺人鬼は生まれるわけですよ。VICEによって。で、外の世界に行って実際、事件を起こして…で、こいつ(刑事)は気に食わんっつって。(VICEに)乗り込んで…殺されるっていう…あ、死んでないか?

 ) 死んでない

今 ) 死んでない

 ) 勝手に殺しました…あ、撃たれたけど生きてましたよね。平気な顔して歩いてましたけど。でも一応血が流れてた

今 ) 笑

 ) 笑

 ) 笑

 ) (ポスターを見て)で、こういう構図なんですよね、見事に、三角関係

公式HPより引用©2014 GEORGIA FILM FUND TWENTY-EIGHT,LLC 


 ) ココが(刑事とレプリカント)手を組んでこの暗黒卿(ブルース・ウィリス)をやっつけるっていう…はずだったけど…復活、みたいな?

 ) めっちゃあっさりでしたよね、最後

 ) そうですね

 ) これで終わんだ?みたいな…

 ) (栗田に向かって)どうですか?

 ) えっ?

 ) まとめてください

 ) えっ?まとま…るかなこれ、難しい気が…いやー…そうですね…

 ) 感想でも

 ) え、感想?感想……ひさしぶりに(映画を観ている)途中で眠くなりました…ウトウトしちゃいましたね

 ) はい、じゃ、今泉さん

今 ) うーん、別に続編は観なくていいかなって感じかな

 ) …じゃ、常川さん…

 ) これ以外にも劇場公開する(べき)映画あるのに…

 ) (続編)観たいの?

 ) いや、これじゃないヤツでもっと劇場公開して欲しいのいっぱいあんのに…

 ) なるほど

 ) ああー、確かに。何故コレをっていう?

 ) そう、何故コレを普通に公開してんだろ、日本…

今 ) 『コードネーム:プリンス』って今、調べて思い出したんだけど

 ) え?はい

今 ) ブルース・ウィリスがマフィアのドンなんだけど、それをある殺し屋に奥さんと子供を殺されて、それを追いかけるっていう話。でもブルースは主役じゃなくて、追いかけられる殺し屋の方が主役

 ) あ、そうなんですか。(ブルースは)主役じゃない。へぇ、じゃ、次回はそれを観るということで…

今 ) いや、「未体験ゾーン」のやつだからもうやってなくて…

 ) どうせだったらこの人(ケリーを指差して)上着を着てないほうが良かったですよね。途中で着ちゃったから……ってどうでも良いこと最後言っとこうかと

 ) ケリーちゃんね?もっと観たかった?

 ) なんか、反撃開始したときに、タンクトップみたいな(服装だったのに)…でも逃げるとき上着ちゃったんですよ

 ) うんうん

今 ) あと技術者の人たちが建物から逃げるとき自主映画っぽい逃げ方だったなって(笑)

 ) えっ?

 ) きっと多分、そう言うノリ…(笑)

 ) ノリ?(笑)

今 ) 金の掛かった自主映画

 ) ……じゃ、これで…

 ) 終わり!?(笑)


※注釈※

(※1)『ブレードランナー』
1982年に公開されたアメリカのSF映画。フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作としている

(※2)『ロボコップ』
1987年に公開されたアメリカのSFアクション映画。『ロボコップ2』、『ロボコップ3』、およびリメイク版『ロボコップ(2014)』がある

(※3)『チャッピー』
2015年に公開されたアメリカのSF・アクション映画

(※4)『ダークナイト』
2008年のアメリカ・イギリス共作映画。バットマン実写映画版第6作目

(※5)『トゥモローランド』
2015年に公開されたアメリカのSFアドベンチャー映画

(※6)『コードネーム:プリンス』
2014年に公開されたアメリカのスリラー映画

(※7)ヒューマントラスト
渋谷にあるテアトル系列の映画館「ヒューマントラストシネマ渋谷」のこと

(※8)「未体験ゾーン」
ヒューマントラストシネマ渋谷で年に1度開催される特集上映企画「未体験ゾーンの映画たち」のこと

(※9)「ジェダイの逆襲」
『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』 『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』が混ざってしまった模様。『~ジェダイの帰還』は2004年までの旧邦題は『ジェダイの復讐』

(※10)『猿の惑星』
1968年に公開されたアメリカのSFアクション映画。ピエール・ブールによるSF小説『猿の惑星』を原作とする『猿の惑星』シリーズ全5作の1作目

(※11)VICE
悪,非行, 堕落行為,悪習,悪癖の意

(※12)『マイアミ・バイス』
2006年に公開されたアメリカのポリスアクション映画。1984年から1989年にかけてアメリカ合衆国で放映していた『特捜刑事マイアミ・バイス』の映画版


『デッド・シティ 2055』




監督/脚本:
制作年:2015年
制作国:アメリカ
配給:東京テアトル、日活

出演:トーマス・ジェーン、ブルース・ウィリス、アンビル・チルダーズほか


公式ホームページ:http://dead-city.net/