2015年6月18日木曜日

フランス映画祭2015試写〜映画『ヴェルヌイユ家の結婚狂想曲』text大久保 渉

フランス人夫妻に訪れた、悲劇と喜劇―『ヴェルヌイユ家の結婚狂想曲』

冒頭、3つの結婚式のシーンが連続して写しだされる。娘を見守る、中年の夫婦。長女とアラブ人の結婚式。次女とユダヤ人の結婚式。三女と中国人の結婚式。段々とおごそかさが消えていく、夫妻の顔。そして最後に、しかめっ面。

「俺は差別主義者ではない」といいつつも、偏見、不満、いらだちばかりをつい口にしてしまう父。「みんな仲良く」と言いつつも、末っ子こそは生粋のフランス人と結婚してほしいと願ってしまう母。その末っ子がコートジボワール人の彼氏を婚約者として連れてきてしまったことで、一家の生活はますます混乱していくのであった。

それにしても、色々な問題が続々と噴出する。義父子のぎこちないコミュニケーション。心労がたたった母のうつ病。末っ子の結婚式をめぐって繰り広げられる、フランスvsコートジボワールの頑固親父対決。そんな夫にあきれ返る妻との、離婚の危機。娘やその夫たちも、なんやかんやと騒ぎ出す。

あまりにも人が多すぎて、多少ドタバタはしているものの、家族を大切にしたいという皆それぞれのおおらかさが、映画にのどかさと、朗らかさをもたらしてくれている。

多様な民族が混在するフランス社会。娘のパートナーたちは流暢にフランス語をしゃべり、社会にしっかりと根をおろしている。なので、今作は異文化との摩擦をとりたててはいるものの、結局のところはお互いちょっかいを出しあうネタとして、宗教、習慣、それぞれの人種偏見を引き合いにだしている。

それらは時に痛烈な皮肉として描き出されることもあるが、それもまたご愛嬌。彼らの民族的特徴は次第に一個の人間、キャラクター独自の魅力として目に映るようになってくる。だからどぎつい差別表現も、「おいおいっ」と笑って楽しむことができるのである。

結婚。新しい家族。奇抜な設定にこそ目を奪われがちだけれども、その根底には、家族の絆が試されるというドラマが広がっている。

お互い異なる者たち同士が、どうやって分かりあっていくのか。その異なりが大きければ大きいほど、交わり合ったときにはかけがえのない強い絆が生みだされるのではないだろうか。

アイロニカルなギャグに冷や冷やしつつ、家族のいさかいにハラハラしつつ、しかしそれもにぎわいとして屈託なく楽しめる。最後までヴェルヌイユ家の行く末に見入ってしまう。そんな、良質な移民系+家族系ドラマであった。

(text:大久保 渉)


フランス映画祭2015の他プログラムでは、『たそがれの女心』もお勧め。でも、『ヴィオレット』も良かった。ああもう、全作品観ていただきたいです!

【フランス映画祭2015〜個人的なお勧め】
『たそがれの女心』(…もう最高!):★★★★★
『ヴェルヌイユの結婚狂想曲』(…もともとコメディ好きなので):★★★★☆





映画『ヴェルヌイユ家の結婚狂想曲』

Qu’est-ce qu’on a fait au bon Dieu ?

作品情報:昨年4月にフランスで公開され、観客動員1200万人を突破した大ヒットコメディ。ロワール地方の町シノンに暮らすヴェルヌイユ夫妻は敬虔なカトリック教徒。三人の娘がユダヤ人、アラブ人、中国人と結婚し、せめて末娘だけはカトリック教徒と、と願っていた夫妻は、パリで暮らす末娘のボーイフレンドがカトリック教徒と聞いて安堵する。だが、末娘が連れて来たのはコートジボワール出身の青年だった…。宗教、異文化についての際どいギャグを交えつつ、多様な人種が混在するフランス社会の懐の深さを大いに感じさせる作品。

監督:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン
出演:クリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビー
2013年/フランス/97分/DCP/ビスタ/ドルビーSR
© 2013 LES FILMS DU 24 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – TF1 FILMS PRODUCTION

受賞歴
2015年 リュミエール賞 脚本賞受賞

© 2013 LES FILMS DU 24 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – TF1 FILMS PRODUCTION




「フランス映画祭2015」
【開催概要】
日程  : 6月26日(金)~29日(月)
会場  : 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長  : エマニュエル・ドゥヴォス(『ヴィオレット(原題)』主演女優)
前売券 : 5月23日(土)AM10:00~6月24日(水) チケットぴあ にて発売
公式URL: http://unifrance.jp/festival/2015/

主催:ユニフランス・フィルムズ
共催:朝日新聞社
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:ルノー/ラコステ
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC
特別協力:TOHOシネマズ/パレスホテル東京/全日本空輸株式会社
Supporting Radio : J-WAVE 81.3FM
協力:三菱地所/ルミネ有楽町/阪急メンズ東京
運営:ユニフランス・フィルムズ/東京フィルメックス
宣伝:プレイタイム

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