2015年6月14日日曜日

映画『サンドラの週末』text高橋 雄太

※文章の一部で、結末に触れている箇所があります。



「和をもって貴しとなす」

ロードムービーであり選挙映画であり足し算映画である。

金曜日、サンドラ(マリオン・コティヤール)は解雇の危機にあった。
月曜日にサンドラの解雇に関する同僚たちの投票が行われる。解雇を免れるためには、同僚の過半数から支持を集めなければならない。会社の同僚たちに、ボーナスかサンドラの雇用かの二択を選んでもらうのだ。
彼女は、支持を取り付けるため、週末を使って同僚たちを訪問する。

集めるのは票であり、人の善意である。その「集めること」の裏に、実は「分けること」がある。
1000ユーロのボーナスを放棄してサンドラを復職させることは、富の分配と言える。票を集めることは、富の分配と善意の積分である。

サンドラは一人で同僚の家に向かい、同僚と会う。そして、また一人で去っていく。この一連の過程が繰り返される。
ここで人数を数えれば、一人、複数(二~三人)、一人。このように、同僚の票を集めることは、人を集めることと対応している。
カメラはこの人数を正確に記録する。歩くときサンドラは一人という孤独な画面。サンドラが同僚と会うとき、複数の人が同じフレーム内に収まる。

本作は集めることと分けることのせめぎ合いの作品でもある。
分けることは、冒頭のタルト、ピザ、富の分配、サンドラが一錠ずつ服用する薬に表れている。
また、サンドラは薬を大量に集めて服用し、自殺を図る。分けるべきものを集めてはいけない。
集めるべきは、やはり人なのだ。

月曜日の投票後、サンドラの反対者は画面から退場し、賛同者は残る。サンドラが八人の賛同者とハグする様子が、やはりワンショットで捉えられる。
一人から二人、二人から三人、三人から九人へ。サンドラが作る人の和は、画面内の人の足し算の和として表現される。
文字通り、人の足し算と友情の「和」である。
結局、失業してしまったサンドラは、再び一人になって歩く。結果だけ見ればサンドラの敗北だ。
だがこの映画では、一人で歩くことは、他の人と集まるための動作である。
最後のサンドラの向こうに人の絆がある。再び人は足し算される。そうして「和」が生まれるはずだ。

★★★☆☆
(text:高橋 雄太)






映画『サンドラの週末』

2014/ベルギー=フランス=イタリア/95分

作品解説
体調を崩し、休職していたサンドラ。回復し、復職する予定であったが、ある金曜日、サンドラは上司から突然解雇を告げられる。 解雇を免れる方法は、同僚16人のうち過半数が自らのボーナスを放棄することに賛成すること。 ボーナスか、サンドラか、翌週の月曜日の投票に向けて、サンドラが家族に支えられながら、週末の二日間、同僚たちにボーナスを諦めてもらうよう、説得しに回る。

出演
サンドラ:マリオン・コティヤール
マニュ:ファブリツィオ・ロンジォーネ
エステル:ピリ・グロワーヌ
マクシム:シモン・コードリ

スタッフ
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
助監督:カロリーヌ・タンブール
撮影監督:アラン・マルコアン(s.b.c)
カメラマン:ブノワ・デルヴォー
カメラマン助手:アモリ・デュケンヌ
編集:マリ=エレーヌ・ドゾ
音響:ブノワ・ド・クレルク
ミキシング:トマ・ゴデ
美術:イゴール・ガブリエル
衣装:マイラ・ラムダン=レヴィ
メーキャップ:ナタリ・タバロー=ヴュイユ
ロケーション・マネージャー:フィリップ・トゥーサン
ユニット・プロダクション・マネージャー:フィリップ・グロフ
スチール:クリスティーヌ・プレニュヌ

制作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、ドニ・フロイド
エグゼクティヴ・プロデューサー:デルフィーヌ・トムソン
共同製作:ヴァレリオ・デ・パロリス、ピーター・ブッケルト
製作協力:アルレッテ・ジルベルベルク

公式ホームページ:http://www.bitters.co.jp/sandra/

劇場情報:Bunkamura ル・シネマ、他、劇場にて公開中

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