2015年6月25日木曜日

映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』textくりた

「鉄と血と、怒れる女神の物語」 

※ネタバレしている箇所があります

Diorの広告塔としても有名なシャーリーズ・セロン。
177cmの長身にすらりとした長い手足、健康的な肌にブロンドヘア。 そして形の良いアーモンド型の目にはブルーグリーンの繊細な瞳がはまっている。 彼女の持つまばゆいばかりの美貌は人々を惹きつけ、魅了してありあまる。

 その彼女が美しい風貌をかなぐり捨てて、丸坊主&黒塗りヘッドの、片腕で挑んだ『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。
本作でのシャーリーズ・セロンは「美しい風貌」を捨てているかもしれないが、それでもやはり彼女は美しく、神々しかった。
砂埃と血とオイルにまみれ、身も心も傷だらけになりながらデス・ロードを爆走する彼女のその姿は誰よりも気高く、そして誰にも支配されない戦いの女神さながらだ。
正直言ってマックス役のトム・ハーディの影も薄くなるほどの苛烈さで、一体どちらが主人公なのか観るものを惑わせる。
いや、どちらかというと彼女が演じるフュリオサこそ真の主人公だといって差し支えないのかもしれない。

 「マッドマックス」シリーズの主人公・マックスの象徴である黒の革ジャケットとソード・オフ・ショットガン、そしてインターセプターは確かにハーディ演じるマックスの持ち物であったが、ショットガンは不発、インターセプターはほとんどウォーボーイズの1人に乗り回されて最終的にはフュリオサが運転するウォータンクに押しつぶされて大破する。

  マックスがマックスとしての象徴を1つずつ取りこぼしていく(ジャケットだけは取り返すが)その一方で、シャーリーズ・セロンが演じるフュリオサはどうか?

 まずフュリオサ(Furiosa)という名前。 これはポルトガル語で「激怒する」等の意味合いがあり、原題の「Fury Road(フューリーロード)」とはまさに、彼女そのものを表しているかのようだ。
また『マッドマックス2』でメル・ギブソン演じるマックスは物語後半で左目を負傷するのだが、本作のクライマックスシーンではフュリオサが右目を負傷し、同じような傷を負っている(トム・ハーディ=マックスの顔面は無傷)。
これは監督であるジョージ・ミラーが意図的に彼女をメル・ギブソン=マックスの対となるキャラクターとして考え、真の意味での主人公として位置づけていると言っても良いのではないだろうか。

 フュリオサはボロボロになりながら老女ばかりの「鉄馬の女たち」を率い、イモータン・ジョーの5人の妻たちを守りながら「怒れる道(Fury Road)」をひた走る。
自らの命を燃やし尽くさんばかりのその勇姿は、イモータン・ジョーの焼印よりも強烈に、観る者たちの胸に深く刻み込まれるに違いない。

 そして忘れてはいけない「鉄馬の女たち」の戦い振りも鮮烈かつエモーショナルだ。 劇中ではあまりのスピードの速さに状況を把握するだけで精一杯だが、鑑賞後のクラクラした頭の中で、ひとつひとつ彼女たちの戦いや表情を思い返すと、ふいに胸が詰まるのを感じる。
観終わった後に泣けてくるなんてそんな映画はいまだかつてなかった。しかもこんなハイテンションのバイオレンス映画で涙する日がくるなんて一体誰が想像しただろう?

 ハイスピードのカーアクションにド派手なクラッシュ、異形のキャラクターが破壊の限りを尽くすだけのバイオレンス作品かと思いきや(確かにそれも見物だが)、決してそれだけではない。
奪われてばかりだった女たちが反旗を翻し、そして自分以外の誰かを守るために立ち上がるこの映画は、女神が人々を再生へと導く神話なのである。

シャーリーズ・セロンの女神度:★×MAX!!!!!
(text:くりた)

関連レビュー:
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』text高橋 雄太
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 「マックスの亡霊たち」textくりた




『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

2015/アメリカ/120分

『マッドマックス』(1979)のシリーズ第4作。石油も水も尽きかけた世界。主人公は愛する家族を奪われ、本能だけで生きながらえている元・警官のマックス(トム・ハーディ)。荒野をさまようマックスは、資源を独占し恐怖と暴力で民衆を支配する凶悪なイモータン・ジョーに捕えられる。そこへジョーの右腕の女戦士フュリオサ(シャーリーズ・セロン)、配下の全身白塗り男ニュークスらが現れ、マックスはジョーへの反乱を企てる彼らと協力し、奴隷として捕われていた美女たちを連れ、決死の逃走を開始する。追いつめられた彼らは、自由と生き残りを賭け、決死の反撃を開始する!

出演
マックス:トム・ハーディ
フュリオサ:シャーリーズ・セロン
ニュークス:ニコラス・ホルト
イモータン・ジョー:ヒュー・キース=バーン
トースト:ゾーイ・クラビッツ

スタッフ
監督:ジョージ・ミラー
脚本:ジョージ・ミラー、ブレンダン・マッカーシー、ニコ・ラザリウス
撮影:ジョン・シール
美術:コリン・ギブソン
衣装:ジェニー・ビーバン
編集:マーガレット・シクセル
音楽:ジャンキー・XL
制作:ダグ・ミッチェル、ジョージ・ミラー、P・J・ボーデン
製作総指揮:イアイン・スミス、グレアム・バーグ、ブルース・バーマン

劇場情報:TOHOシネマズ、ユナイテッド・シネマ、MOVIX、ピカデリーの各劇場他にて絶賛公開中

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