2015年7月22日水曜日

フランス映画祭2015 映画『ヴィオレット』(原題) text佐藤 奈緒子

「トークショーゲスト: 監督マルタン・プロヴォ/女優エマニュエル・ドゥヴォス」


本作はフランスに実在した女性作家ヴィオレット・ルデュックの半生を描いた伝記映画である。ヴィオレット(エマニュエル・ドゥヴォス)は両親に愛されずに育った孤独を抱える女性。だが彼女には小説を書く才能があった。第二次大戦中は闇市で生計を立てながら地道に文章を書き溜め、いつしかボーヴォワール(サンドリーヌ・キベルラン)に認められるようになる。文壇は彼女をすぐには受け入れなかったが、誰かに認められたい、愛されたいと願うヴィオレットはもがき苦しみ、自身の恋愛を赤裸々に描いた小説を発表することでようやく世間に認められていくのだが……


女性が自立することの難しかった20世紀半ば、父親に認知されず母親の愛に飢え、夫にも恵まれないヴィオレットは自立を強いられる。その過酷な環境や葛藤は結果として彼女の才能を育んだ。敷かれたレールのない人生が彼女をつまらない常識から解放し、愛への渇望が奔放な恋愛体験へと結びつけた。思想もビジョンもない彼女が結果的にフェミニズムの礎となったボーヴォワールにたどり着く奇跡的な巡り合わせは、ヴィオレット自身が切り開いた道でもある。その生き様はしかし、一言で言って痛い。自分を受け入れることのない男や女に期待して纏わりついて追いすがる、 結果自分を傷つける行動にばかり走るヴィオレットは、さながら自傷癖のある女。しかし彼女のなりふり構わぬ愛への渇望を痛々しく感じるのは、自分の中の小さなヴィオレットが同じ痛みを感じるからかもしれない。


マルタン・プロヴォ監督は映画『セラフィーヌの庭』に続き、再び、ひたむきで清らかな魂によって徐々に才能を認められていく女性アーティストを描いた。上映後に催されたトークショーで、監督がボーヴォワールをヴィオレットの「父親代わり」と評したのは興味深い。庇護者となる男性がいないヴィオレットの生き方がボーヴォワールを引きつけ、彼女の思想にも少なからぬ影響を与えたとも考えられる。ヴィオレット役にエマニュエル・ドゥヴォスを選んだことについて監督は「最初から彼女しかいないと思っていました。最初に、顔を醜くしてもいいかと聞いたら、女優にとってはプレゼントのようなものだと答えてくれました」と言っている。
確かに本作のエマニュエルは美しくない。もともと一度見たら忘れられない印象を残す彼女だが、どこをどうメイクしたのか、本作では顔にコンプレックスを持つヴィオレットに説得力を与えている。そのギャップもあってか、同じくトークショーに登壇した今年のフランス映画祭の団長であるエマニュエルの美しさには驚いた。作中のヴィオレットとはまったく異なる優雅で気品ある姿はまさにフランスの大女優の名にふさわしい。
彼女は演じた役について「男でも女でも絵画でも文学でも、アートで苦悩を乗り越える姿が素晴らしいと思います」と語った。

監督と女優が口を揃えて言っていたのは、現在では忘れ去られてしまったヴィオレット・ルデュックという作家の文章が非常に美しいということ。もし日本語訳で体験できるならぜひ一読してみたい。

痛さに共感度:★★★☆☆
(text佐藤 奈緒子)



『ヴィオレット(原題)』
原題:VIOLETTE 
フランス映画|2013年|仏語|カラー|1:1.85|5.1ch|139分|DCP
日本語字幕:松岡葉子

作品解説
『セラフィーヌの庭』でセザール賞最優秀作品賞に輝いたマルタン・プロヴォ監督が、“ボーヴォワールの女友達”と呼ばれた実在の女性作家、ヴィオレット・ルデュックの半生を描く。私生児として生まれたヴィオレットは作家モーリスと出会い、やがて小説を書き始める。ボーヴォワールを訪ね才能を見いだされるが、ヴィオレットの小説は大きなスキャンダルになりパリ文学界に大きな衝撃を与える。当時の社会に受け入れられず、愛を求める純粋さゆえに傷ついた彼女は……。生涯にわたり続いたボーヴォワールとの関係を中心に描かれ、背景となる40〜60年代の文学界の様子や、戦後パリの新しい文化の胎動も見所の一つとなっている。

出演
エマニュエル・ドゥヴォス
サンドリーヌ・キベルラン
オリヴィエ・グルメ
ジャック・ボナフェ
オリヴィエ・ピィ

監督:マルタン・プロヴォ

作品情報(フランス映画祭2015の作品ページより)
http://unifrance.jp/festival/2015/films/film08

劇場情報:12月岩波ホールほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ
© TS PRODUCTIONS - 2013

フランス映画祭2015
6月26日(金)~29日(月) 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)にて開催!
公式サイト : http://unifrance.jp./festival/2015/

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