2015年7月23日木曜日

映画『アリスのままで』text大久保 渉

「ジュリアン・ムーアの演技がすごかった」


記憶を失うということは、頭の中で空白が広がっていく感じなのか、暗闇が広がっていく感じなのか。エンドロールを眺めつつ、ふとそんなことを考えてしまった。

若年性アルツハイマー病を患った女性のお話。“突発性”と“家族性”。後者のタイプは1/2の確率で子供に遺伝するという。そして知能指数が高い人ほど物忘れの進行が早い傾向にあるという。他にもどんなテストで病気が判明するのか、どういった症状があらわれるのか、どういった治療の選択肢があるのか、等々。映画を通して若年性アルツハイマー病という病気への理解度があがる。認知度があがる。そこに今作の社会的意義のようなものが垣間見えたりもするので、良い映画だな、と素直に思った。

原作はアメリカの神経科学者リサ・ジェノヴァが、神経科学の研究で出会った多くの人々からヒントを得て執筆したという同名小説。劇中、自身の病気について語る主人公アリス(ジュリアン・ムーア)のスピーチがとても印象に残った。「苦しんではいません、戦っているのです」。それは恐らく、同じ病状の患者たちを励ますメッセージでもあっただろうし、見ている私たちに向けた、理解を求めるメッセージでもあったように感じられた。

刻々と迫りくる記憶の喪失と向き合う主人公に焦点を当てた、まるで経過日誌であるかのような場面の数々。アリスの病状の変化が、彼女の主観的視点と彼女を捉えた客観的視点から描き出されていく。次第に失われていく記憶。だんだんと飛び飛びになっていく場面展開。シーンを重ねるごとに力が抜けていくアリスの表情を見ては、胸が締め付けられてしまったのである。

だがしかし、飛ばされていったカットには記憶の喪失以外のものも数多く含まれていたように感じられた。それは例えば、主人公の失職、あるいは長女と主人公の確執や、夫と主人公の罵り合い、等々。それらはそのさわりこそ映しだされてはいたものの、いつまでも執拗にフォーカスされ続けるというようなことは決してなかった。痛々しく、悩ましく、悲しみに押しつぶされそうなシーンこそ多い映画ではあったものの、そうした場面展開の流れの中に、微かな温かみがあったように感じられた。離れていく者、寄り添う者、いずれにせよ、画面には病に侵されたアリスのことを想う家族のすがたが映し出されていたように感じられたのである。

記憶。上映時間。限られた時間の中にあって、今作は何を映しだしたかったのか。映画のラスト、主人公が口にした「愛」という一言がとても強く耳に残った。その一言が、これまで見てきた映像とふっと重なったように感じられたのである。なにより映画を見ていて私が思ったことは、アリスのことを愛おしく思う気持ち。そしてその愛おしさは、彼女の家族たちも心の奥底では間違いなく感じていた気持ちであっただろうし、もちろん彼女だって、どんなに記憶が薄れようとも家族のことを絶えず愛していたのだろうし…。エンドロールの間中、ぼんやりと画面に浮かび続けた「STILL ALICE」の文字を見ては、ふとそんなことも考えてしまったのである。

しみじみ考えてしまう度:★★★★☆
(text:大久保渉)





映画『アリスのままで』
(原題『STILL ALICE』)

2014年/アメリカ/101分/ビスタ

作品解説
大学教授で言語学者のアリス(ジュリアン・ムーア)は、学生に慕われ、家族にも恵まれる充実した日常を送っていた。しかし物忘れが顕著に現れるようになったため受診したところ、医師から若年性アルツハイマー病だと告げられる。徐々に記憶が失われる過酷な運命と、アリスは懸命に向き合っていく。

出演
ジュリアン・ムーア
アレック・ボールドウィン
クリステン・スチュワート

スタッフ
監督:リチャード・グラッツァー、ウォッシュ・ウェストモアランド
脚色:ウォッシュ・ウェストモアランド
製作:パメラ・コフラー
原案:リサ・ジェノヴァ『アリスのままで』

公式ホームページ:http://alice-movie.com/index.html

劇場情報:TOHOシネマズ六本木ほか全国公開中

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