2015年11月26日木曜日

第16回東京フィルメックス《オープニング作品》映画『ひそひそ星』text長谷部 友子

鈴木洋子には理解できない。
テレポーションが可能なこの時代、どうして何年もの時間をかけて箱に入ったものを届けようとするのかを。それを送るのは人間で、受け取るもの人間だということを。

ロボットが8割、人類が2割になった未来の宇宙では、人類は滅びゆく絶滅種に認定されている。鈴木洋子は様々な星を巡って人間たちに荷物を届ける宇宙宅配便の配達アンドロイドだ。10年近くも一人宇宙船に乗り配達を続ける彼女はレトロ趣味らしく、狭い宇宙船には、閉まりの悪い蛇口とか、ほうきとか、はたきとか、近未来にしては不自然なものたちが鎮座する。そして彼女はよく緑茶をすすり、くしゃみをする。
繰り返される何もない宇宙船での日常。星々で人間に荷物を届け続けた鈴木洋子は、ついに「人間しか住んでいない惑星」に降り立とうとする。

大学生がつくった映画のようだと思った。
それはやたらと昭和的なものたちを配置して宇宙船と言い張るインディペンデント的な映画の作成手法のみが理由ではない。アンドロイドが人間の心を知りたい。ある意味使い古された題材でありながらも、そこに奇妙な無邪気さと純粋さを感じたからだ。
その感覚はある意味正しかった。上映後の園子温監督の質疑応答によれば、この作品は監督が25年前に書いた脚本と絵コンテをもとにつくられ、監督の言葉によれば、「20代の自分、それはもう彼と言ってもいいくらいの存在の彼に、君はそう考えるんだねとリスペクトして作成」している。25年前の構想を現在の視座から構築しなおしてというよりは、そのときの自分の発想に忠実につくられた作品となっている。
25年前に想定していたものと大きな違いは撮影場所で、人間がしでかしてしまった愚かな場所には当時「夢の島とかそういった場所」を想定していたが、それは「福島」にかわっていた。この作品の多くの場面は東日本大震災の傷跡が残る福島で撮影されている。

あなたが私であったなら。
今この瞬間、私があなたと完全に同一であったなら、私の不安は消え去るだろうし、あなたをこれほど求め、焦がれることもないのだろう。
触れられない距離に焦がれ、あなたとの差異を生む時間に疑心暗鬼になる。それはいつだって私たちを苦しめる。けれど埋まることのない時間と距離はまちがいなく私たちの人生を彩るのであろう。

誰かの不在を想い、距離のあるその人は、いまどうしているかと思いを馳せる。昔の記憶を呼び起こし、ときには写真を眺め、思い出の品を見つめながら。
「モノ」や「カタチ」に意味はないという人もいる。大切なものは記憶であり思い出で、大事なものは「カタチ」がないのだと。
けれど私たちは輪郭に触れ、何かを想起する。原始的なその感情をこの作品は優しく肯定してくれる。

公開が待ち遠しい度:★★★★☆

text:長谷部友子





『ひそひそ星』
2015年/日本/100分

作品解説
園子温監督が2014年に設立したシオンプロダクションの第1作として、自主制作で完成させたモノクロSFドラマ。園監督が1990年に執筆した脚本を、妻である女優・神楽坂恵を主演に迎えて映画化した。

出演
神楽坂恵、遠藤賢司、池田優斗、森康子

スタッフ
監督・脚本:園子温
プロデューサー:鈴木剛、園いづみ
配給:日活

劇場情報
2016年5月、新宿シネマカリテにて公開決定!

第16回東京フィルメックス
2015年11月21日(土)〜29日(日)まで開催。「映画の未来へ」--いま世界が最も注目する作品をいち早く上映する国際映画祭。アジアの若手によるコンペ部門、最先端の注目作が並ぶ特別招待作品の上映。特集上映のひとつはフランスのピエール・エテックス作品。

公式ホームページ
http://filmex.net/2015/



2 件のコメント:

  1. レビューを読んで、祖父母や友人にプレゼントを送ったことを思い出しました。劇場に観に行こうと思います(o^^o)

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    1. 晴璢さん初めまして。
      コメントありがとうございます。
      このサイトを作ってから晴璢さんが初のコメントなのでとても嬉しいです!
      『ひそひそ星』は来年の5月に公開なのでちょっと先ですが是非ご覧になってください ^ ^

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