2015年11月21日土曜日

秋の映画祭シーズンを勤め人として過ごすという記録 text井河澤 智子

個人的な話で恐縮である。
普段会社勤めではないわが身ではあるが、俄かに二ヶ月間だけ勤め人と相成った。期間は10月上旬~12月上旬。そう、東京国際映画祭などの大規模映画イベント目白押しの時期である。
勤労は尊く、収入もまた尊い。しかし、この秋の(文字通り)例大祭を満喫しないという選択肢は私には無かった。
こうなったらこの二カ月、自分の趣味と、普通の勤め人の義務を両立させてみようと、誰に仕掛けられたわけでもない闘いを己に課すこととしたのである。
まずは東京国際映画祭。チケット販売初日に、「時間的に間に合うであろう」映画を片端から購入。その数、11本。後に追加で買って、計12本。
(片端からとは少々盛った。「コンペティション」「ワールド・フォーカス」の中から選択したことをここに白状する。)
はたして、8時半出勤・17時退勤という生活をきちんと週5で行いながら、わたしはこのチケットをすべて消化することが出来るのであろうか?

結論から言えば、私は己との闘い第1ラウンドに完勝した。
10月中旬の某所特集上映や、第1の山場10月下旬の東京国際映画祭をこえて、続く11月2日まで、ロードショーやら回顧上映やら旧作デジタルリマスター上映やらも含め、勤めがはじまってから3週間で19本を観たことになる。
我ながら頑張った。そして、疲弊した。映画の観すぎで発熱するということはあるのだろうか。11月3日文化の日、祝日。私は寝込んだ。

コンペティション部門については既に「ことばの映画館」ライター常川氏による短評が出ていることでもあるし、私も特に取材のつもりで行ったわけではないのでQ&Aなどについてはひとつひとつ記録など取っていないため、私の短評は差し控える。
そこで、「ワールド・フォーカス」部門から、ドイツ映画『ヴィクトリア』について少々書いてみようと思っているのだが、ここまで個人的な話の羅列をしておいて唐突に作品評を挟み込むのも違和感があるため、別項として頁を割きたい。
映画祭はまだまだ続く。特集上映、中小規模映画祭も含めると、わが手帳が墨で真っ黒になり、己が記した文字が読めなくなった。
それらのスケジュールは決して平日日中勤務の会社員に優しいものではない。チラシを観てどれだけ憤ったことであろうか。
しかし憤ったとて詮無いこと。私はただ、この時期、己の空いた時間を、「映画との一期一会」に捧げる所存である。
そしてもうじき、もう一つの秋の例大祭が始まる。
東京フィルメックス。
ああ、素晴らしい映画との一期一会の時期が来る。

わたしの闘いはまだまだ続きそうである。
そして、映画の季節が一段落するとともに、私の会社員生活もひとまず終わる。

映画を観るために小銭を稼ぐ算段をする生活が、また始まる。


(なおその後筆者は一気に忙しくなり、予定していた原稿はなかなか書くことができませんでした。筆者はよれよれになりながら
「仕事しながら映画観るということは、そして書くということは、やはりとても難しいと感じました。近いうち、きっと『ヴィクトリア』の原稿を書きたいと思っておりますので、どうぞお見限りなくお願いいたします」
と申しております。皆様、どうか気長にお待ちください)


(text:井河澤 智子)


関連レビュー:
第28回東京国際映画祭《コンペティション部門》 短評 text :常川 拓也

第16回東京フィルメックス 特集記事vol.4《ラインナップ記者会見取材》(特集上映作品編) text: 井河澤 智子


第28回 東京国際映画祭


28回を迎える東京国際映画祭(以下TIFF)は、1985年からスタートした国際映画製作者連盟公認のアジア最大の長編国際映画祭。若手映画監督を支援・育成するための「コンペティション」では国際的な審査委員によってグランプリが選出され、世界各国から毎年多数の作品が応募があり、入賞した後に国際的に活躍するクリエイターたちが続々現れている。アジア映画の新しい潮流を紹介する「アジアの未来」、日本映画の魅力を特集する「日本映画クラシックス」、日本映画の海外プロモーションを目的とした「Japan Now」、「日本映画スプラッシュ」などを始めとする多様な部門があり、才能溢れる新人監督から熟練の監督まで、世界中から厳選されたハイクオリティーな作品が集結する。
国内外の映画人、映画ファンが集まって交流の場となると共に、新たな才能と優れた映画に出会う映画ファン必見の映画祭である。

公式ホームページ
2015年10月22日(木)〜10月31日(土)  ※会期終了

第16回東京フィルメックス

2015年11月21日(土)〜29日(日)まで開催。「映画の未来へ」--いま世界が最も注目する作品をいち早く上映する国際映画祭。アジアの若手によるコンペ部門、最先端の注目作が並ぶ特別招待作品の上映。特集上映のひとつはフランスのピエール・エテックス。

公式ホームページ



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