老作家と、美しい「金魚」の会話が織りなす艶やかな物語である。
『生きてるものはいないのか』(2011)『狂い咲きサンダーロード』(1980)などで知られる石井岳龍監督によって映画化され、1月27日、都内で試写イベントが行われた。
登壇者は、石井岳龍監督、「金魚」を演じた二階堂ふみさん、老作家を演じた大杉漣さん。
二階堂さんは高校の頃に原作を読み、是非やりたい、と思ったそうで、
「いろんな方にこれがやりたい、という話をしていたので、言い続けていたらちゃんと出会う、ということを実感しました。」
「やりとりが会話文なんですけど、それがとても可愛くて。あの時代の文学作品の深みに惹かれて。その深みって、頭でどうこう言語化するのではなくて、体で感じ取る、直接的にワクワクさせるものだな、と思いました」と語る。
人間ではない「金魚」の役だということについては、その難しさと楽しさについて
「赤ちゃんみたいな、言葉とか、文字とかを認識していない……大人になるとどうしても、言葉の意味であったり、文字の意味であったり、イメージであったり、そういったものが染み付いてしまっていますが、動物は多分言葉の意味はあまりよくわからなくて、感じるものを頼りに発しているんじゃないかと思って。セリフを発するだけでとても新鮮な毎日でした」と表現した。
老作家を演じた大杉さんは、石井監督作には初出演で、
「自分も40年俳優をやり続けて、監督と、二階堂さんと、こうして映画の現場を一緒にできるということは、簡単に言うと「冥利に尽きる」ということだと思うんです。役者も、監督も『蜜のあわれ』という現場で真剣勝負をしたと思います。厳しくも濃密な時間を過ごしたな、という印象です。」と穏やかに語る。
また、室生犀星とよく似ているという件について
「写真を見たんですよ、真似をしたわけではないんですが、メガネがとても好みだったんです。僕メガネ大好きなので。それで、室生さんとよく似たメガネを東京で一週間くらいかけて探したんです」と、その裏話を明かした。
とても言葉が美しい作品であるとのこと。キーとなるセリフは
“人を好きになるということは、愉しいものでございます。”
このセリフについて大杉さんは
「当たり前なんですが、当たり前のことをスッと言える彼の潔さ。蜜のあわれというタイトルも、蜜という甘い部分の中に、あわれさ、老いていくはかなさ、人としての滑稽さ、いろいろな部分が含まれている、ということを感じました。老いていくということは、そんなに悪くないな、とちょっと思っています。」
二階堂さんは、役作りの段階から言葉の出し方にこだわっていたそうで
「全体を通して、とても気持ちいいセリフで。言葉を発すること自体が愉しいことでした。」
石井岳龍監督は、作品についてこう語る。
「老作家と、若い女の子の姿をした金魚が、とりとめないお話を繰り広げて、そこに幽霊が絡んでくる、とっても不思議な話です。室生犀星は日本の代表的な詩人ですが、これは最晩年に書いたフィクションで、こんな不思議なものを書いた室生犀星ってどんな人なのか、興味が湧いて。」
「自分が一番特等席でその世界を見たわけでしたが、酔わされました。この感じをどのようにみなさんに届けるか、というのが私の使命でした。二階堂さん、大杉さんも素敵ですが、他の俳優さんも、スタッフの仕事もとても素晴らしいので、どうぞ存分に堪能してください」
真木よう子、永瀬正敏、高良健吾らが脇を固め、また、「フィルム撮影にこだわった」という本作。細部まで行き届いた美しさで、原作小説の耽美なエロティシズムを再現している。特に「赤」という色が持つ様々な表情が、非常に印象的な作品である。
映画『蜜のあわれ』は、4月1日(金)より新宿バルト9ほかにて全国ロードショー。
舞台上手より、大杉漣さん、二階堂ふみさん、石井岳龍監督。
二階堂さんは金魚を思わせる真っ赤なドレスで登壇。
劇中の衣装もとっても可愛い!どうぞお楽しみに!
(text&photo:井河澤智子)
『蜜のあわれ』
2015年/日本/105分
作品解説
出演
老作家:大杉蓮
赤井赤子:二階堂ふみ
田村ゆり子:真木よう子
田村ゆり子:真木よう子
丸井丸子:韓英恵
金魚売り:永瀬正敏
バーテンダー:渋川清彦
スタッフ
監督:石井岳龍
原作:室生犀星
脚本:港岳彦
エグゼクティブプロデューサー:香山哲、小西啓介
エグゼクティブプロデューサー:香山哲、小西啓介
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