2016年6月28日火曜日

映画『ひと夏のファンタジア』公開初日・舞台挨拶レポート

昨年開催された第37回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)にて特別上映され話題となった、奈良県五條市にて撮影された映画『ひと夏のファンタジア』の初日舞台挨拶が6月25日(土)、渋谷ユーロスペースにて行われ、チャン・ゴンジェ監督、主演の岩瀬亮、キム・セビョク、康すおんが登壇し、撮影時の思いなどをそれぞれが語った。

映画は2014年に河瀨直美監督のプロデュースのもと、全編が奈良県五條市で撮影された。奈良県は河瀨監督作品『萌の朱雀』で知られるようになった山間の静けさのある土地である。本作は白黒のドキュメンタリー調からなる《第一部》〜ドキュメンタリー調、日本の夏をしっとりと色彩ゆたかに男と女のある一日を収めた《第二部》〜劇映画調の2部構成で作られた作品である。

ワンシーン・ワンカットで撮られた撮影現場にて、主演の岩瀬は「これは休憩ありの6時間の大作になってしまうのでは……」と思ってしまうほどの長回しがあったことなど、現場での感想を振り返った。また、《第二部》では元々シナリオがなく、監督と俳優陣が現場で作り上げていった撮影秘話などを交えた舞台挨拶となった。


左より、チャン・ゴンジェ監督、キム・セビョクさん、岩瀬亮さん、康すおんさん


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—今日は記念すべき日本公開日です。感想をお聞かせください。

ゴンジェ ちょうど2年前に奈良の五條で撮った映画です。河瀨直美監督のプロデュースのもと、ここにいらっしゃる俳優の皆さんと、とても楽しく撮った映画です。東京の観客の皆さんがどのようにこの映画を観てくれたか気になりますし、後でまたお話を聞かせてくれたら嬉しいです。とにかくどんな感想を持ってくれたかが今一番気になっています。

セビョク 韓国では昨年公開されました。韓国でも本当にたくさんの方に観ていただいた映画です。私は映画の中で日本語を話す役を演じたこともあり、皆さんの反応が気になります。

岩瀬 この映画はもう韓国では公開されているので、韓国の方たちの反応は見ているのですが、日本の方々がどういう風に見られるのか僕も気になるところです。感想を楽しみにしています。あと、今日万全な状態で来られなかったことを哀しく思っております(笑)。本当にすみません(笑)。

 僕は最初、言葉の壁をどう乗り越えていくんやろうなぁと思ったんですけど、監督たちと寄り添いながらお互い五感を研ぎ澄ませていくと何とかシーンを作っていけるものなんやなぁと感じて、それが面白かったですね。


撮影当時のエピソードをお聞かせください。

ゴンジェ まずとても時間がなかったことが大きかったです。この映画は一部と二部に分けられていますが、一部はシナリオがあって作ったものです。ただ、二部の場合はシナリオがない状態で撮影しなければならず、本当に毎日俳優の方たちと相談しながら、即興で撮った部分も多い映画でした。俳優の立場としたら、もしかしたらそういう作り方は面白いかもしれないですが、監督の立場としては、本当にどうやっていこうか悩んだり大変な思いをした映画です。

セビョク 私の場合は海外で撮影する経験がはじめてでしたし、出演者や監督の皆さんと寝泊まりしながら合宿のように過ごして撮影した経験もはじめてでした。そういった経験自体が、楽しく良い経験でした。その時も楽しかったのですが、過ぎてみて、本当に良い思い出として心の中に残っています。また、そういう状況で撮影しましたので、より集中して演技、撮影ができたかなと思っています。とても良い思い出です。それから今、一番の思い出として残っているのは、本当に暑かったことです。今日、撮影していただいたカメラマンの方に来ていただいていますが、撮影監督の方が本当に汗をダラダラ流しながら撮影していただいた記憶が蘇ってきます。

ゴンジェ 今日は撮影監督の藤井昌之さんが会場にいらっしゃっています。


―この間、ワイルドフラワー映画祭で撮影賞を授賞されました。

ゴンジェ 韓国のインディーズ映画のための授賞式でも最優秀撮影賞を授賞されました。トロフィーはちゃんと受け取られましたでしょうか。

藤井 (観客席から答えて)受け取りました!

岩瀬 撮影で覚えているのは、二部のシナリオがなかったので、そのシーンのスタートと終わりがはっきりしてなくて、ワンシーンワンカットで全部撮影し、それを切り取っています。実際はどれも20~30分平気で回していたので、「これは休憩ありの6時間の大作になってしまうのでは……」と思いながら撮っていたことを思い出しました。

 監督から最初に言われたのが、「俳優としてバレないように、そこに存在するようにいてほしい」ということでした。それは僕も昔から一度やってみたかったことでした。どうしても役者ではない一般の方と同じ画面に映ると違和感が出てしまうので、どういう風に(画面内に)収まるかということばかり考えていました。だから五條に行ってもウロウロウロウロして、色んな店や図書館などで現地の人たちと話したりしました。何かないかなと思いながら、そればかり考えていたことを思い出しますね。


そういった素晴らしい演技が、ドキュメンタリーとフィクション、ファンタジーにつながっていくことになったのではないかと思います。その点、監督はいかが思われますでしょうか。

ゴンジェ 韓国でも観客の方や評論家の方からの評価を聞くと、やはり俳優のやり遂げた要素が力となってくれた部分が大きい映画だ、という評を多く聞きました。個人個人の演技はもちろん素晴らしいですし、みなさんのアンサンブルも上手く効果が出たと思っています。本当に俳優の皆さんのおかげだと思っています。




昨年、韓国では3万6千人を超える大ヒットを記録しました。キム・セビョクさんにお聞きしますが、その理由はどういうところにあったとお考えでしょうか。

セビョク
 この映画を観ていただいた皆さんは、それぞれ好きな部分がどうも違うようなんですね。一部が好きな方もいますし、二部が好きな方もいます。また、ひとつひとつの細かいシーンまで好きなところがそれぞれ違いますので、本当に個人個人の何かと持っているものを刺激するものがあるのではないかと思います。ただ、それが何かはわからないのですが、何かみなさんそれぞれに届くものがあったのかなと思っています。

ゴンジェ 韓国では20代の女性の観客の反応が圧倒的に多かったんですね。ひとりで海外に行こうという経験を通じて、そこで素敵な人に会ってロマンスが芽生えるところに惹かれた観客が多かったのではないかと感じています。


岩瀬さんは韓国で公開時、空港でパパラッチされるほど人気があったようですが、そのへんはどうでしょうか?

岩瀬 (観客笑)。笑われてるじゃないですか(笑)!  話が重なってしまうかもしれませんが、女性が外国へひとりで旅をするっていうロマンチックな設定なので、そういう映画にたまたま出ていたのが僕なのかな、という感じを持っていますね。


監督はいかがでしたか?

ゴンジェ 岩瀬さんは韓国で今最もデートしたい人と言われるほどの人気です。10年前は加瀬亮さんの時代だと言われておりましたが、今は岩瀬さんがそうです(笑)。


この映画が韓国で多くの反響があったことについては、いかがでしょうか?

ゴンジェ インディーズの作品なので、観客はもともと入らないんですけども、公開したのはちょうど去年の今頃で、その時韓国はMARSが発生して公開が決まっていた他の映画も延期したりといろいろ起こっていて、どうなるかな? と思っていたのですけれども、初日に公開された時にお客さんが満席だったんですね。たくさんの方に見て頂いて、これは一体なんだろう? と思ったんですけれども、皆さんにそうやって本当に楽しんでいただいたので、監督として作ってよかったなあという気持ちです。もちろんこの映画は五條市から支援を受けていますけれども、私は単純にこの映画を五條の広報をするとか観光的に、ということは元々考えていなかったんですね。韓国の方が結果的に五條市に訪れてみたいと言って、実際五條に観光された方も本当にいましたし、今でも観光客にとって五條がトレンディだと聞いております。結果的には広報の映画になったなあというふうに思っています。


今日、来て頂いたお客さんの中で質問がある方はいらっしゃいますか?

質問 第一部の冒頭のシーンを見たときに、私は一瞬それが、日本語なのか韓国語なのか聞きわけられなかったのですが、かなりきつい関西弁ですし、小さい声でしゃべっている……それは監督はわざと観客は聞き分けられないだろうな、と意図して作られたのでしょうか?

ゴンジェ 私自身も日本語ができないので、日本語を言語としてではなく、音で聞いていたんですけれども、理解ができなくても音として聞いて欲しいというような意識を持って作業をしていました。


最後に一言、日本のお客さんへお一人ずつお願いします。

ゴンジェ まず、ユーロスペースで上映となることにご尽力くださった皆様、ありがとうございます。それから日本で公開できるようにしてくださった日本のスタッフの方々に本当に感謝しております。皆さんが楽しく見てくれたら本当に嬉しく思います。もし今日、面白いなと思っていただけた方がいたら、周りの人にも進めてください。それでは、みなさん楽しい週末の夜をお過ごしください。

セビョク 日本には旅行や撮影で来たことはあったのですが、自分が出ている映画が海外で公開されたという始めての経験になりました。とても新鮮で緊張したこともあったのですが、とても気分がいいです。皆さんがこの映画をどういうふうに見てくれたかということを、ずっとそれが気になっているのですけれども、楽しんで頂けましたら本当に嬉しく思います。

岩瀬 今日は本当にご覧いただきありがとうございました。僕はこの映画は本当に何度も見ているのですが、自分の家でもDVDがあって見たりするんですけれども、あまり、自分が出演してきた映画でそういう事をする事っていうのはなくて、毎回見る度に一部がよかったり、二部の方がすごく自分にヒットしたり、日によって違ったりしました。様々な魅力を持った映画になったのではないかなと思っているので、もし気に入っていただいたら、皆さんに伝えていたただければと思います。本日はありがとうございました。

 作品は一人歩きして行くものが多いと思ってるんで、この作品も出来るだけ一人歩きしていけるようにと願っております。ありがとうございました。


以上は2016年6月25日の公開初日に行われた舞台挨拶の模様から採録しました

(text:小川学)

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主演・岩瀬亮さんの単独インタビュー記事も併せてお読みください。

http://kotocine.blogspot.jp/2016/06/text_22.html


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『ひと夏のファンタジア』
2014/日本・韓国/96分/DCP

作品解説
<一部>
韓国から奈良県五條市に次回作のシナリオ・ハンティングのためやってきた映画監督テフン(イム・ヒョングク)は、助手兼通訳のミジョン(キム・セビョク)とともに、観光課の職員・武田(岩瀬亮)の案内で町のあちこちを訪ね歩く。古い喫茶店や廃校、ひとり暮らしの老人宅など、五條に暮らす人々をインタビューして回り、彼は花火大会の夜に不思議な夢を見る。
<二部>
韓国から奈良県五條市へひとりで旅行に来た若い女性へジョン(キム・セビョク)は、観光案内所で柿農家の青年・友助(岩瀬亮)と出会う。古い町を歩きながらともに時間を過ごす中で、友助は次第に彼女に惹かれていく。

キャスト
ミジョン:キム・セビョク
武田友助:岩瀬亮
キム・テフン:イム・ヒョングク
ケンジ:康すおん

スタッフ
脚本・監督:チャン・ゴンジェ
プロデューサー:河瀨直美、チャン・ゴンジェ

@Nara International Film Festival+MOCUSHURA

公式ホームページ
http://hitonatsunofantasia.com

劇場情報
6月25日(土)より 東京 ユーロスペースにてレイトショー
7月2日(土)より 大阪 シネ・ヌーヴォ、名古屋 シネマスコーレにてロードショー
7月9日(土)より 横浜シネマリン、8月以降 シネマテークたかさき ほか、全国順次公開予定


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