2016年10月6日木曜日

【IFFJ2016特集】映画『ファン』評text西田 志緒

©Yash Raj Films

「駆逐か、和解かーー葛藤の行方」


『ファン』の一番の見所は、なんといっても「キング・オブ・ボリウッド」、主演のシャー・ルク・カーンである。
しかも、1人2役。シャールクが、自身の分身のような大スターと、熱狂的なファンという対照的な役柄を演じる。色んな表情のシャールクが堪能できてしまうのだ。

これはおいしい。おいしすぎる!! その設定だけで、充分に観る価値がある。
緩急をつけながら、物語が進むにつれてどんどんスリリングになって行くストーリーも面白い。ラストに向かう疾走感にグイグイ引き込まれる作品だ。

シャールクが演じるのは、大スターのアーリヤン。そしてもう1人、子どもの頃からアーリヤンに憧れて、人生のすべてを大スターに捧げてきた、ゴウラヴだ。
アーリヤンの色気がヤバイ。そして、ゴウラヴの色気ゼロもスゴイ。特殊メイクをしているといっても、本当に同じ人かと疑うレベルの振れ幅がある。
シャールクの魅力は、オーラ&色気ゼロのお調子者も、オーラ&色気バリバリの色男も演じられるところだ。真逆に振り切れているシャールクをこの1本で楽しめる。非常にお得感がある。

ゴウラヴのひたむきな熱狂ファンぶりがチャーミングだ。
地元のコンテストにアーリヤンのものまねで出場し、見事優勝。その賞金で、映画の都ムンバイまで大スターに会いに行く。
アーリヤンがかつてそうしたように、列車にキセルで乗り込み、大スターが初めてムンバイに来たときに泊まったのと同じホテルの、同じ部屋に泊まる。
まさに聖地巡礼。神に近づくかのような喜びと高揚感に、わかるよゴウラヴ! と微笑ましい気分にさせられる。

ゴウラヴの願いはただ1つ。
アーリヤンに会って、コンテストで優勝したトロフィーを捧げたい。そのたった5分が、彼の人生の望みなのだ。

その一途な思いが、やがて狂気のストーカーへと変貌していく。観ている側の世界まで ぐにゃり と歪むような気持ち悪さを覚える。絶妙だ。
アーリヤンを「シニア」、自らを「ジュニア」と呼ぶほどスターと瓜二つのゴウラヴは、アーリヤンを騙って悪事を働き、スターの信用を汚していく。

スマホやSNSの使い方も面白い。
個々人がメディアになれる時代、特定の場所で起きた事件がただちに拡散されて、広がり出したら止まらない。その情報が正確か捏造かなんて、誰も気にしない。
いとも簡単に、世界は歪み、アーリヤンの名声は失墜して行くのだ。

今まではゴウラヴがファンとしてアーリヤンを追いかけていたが、立場が逆転し、今度はアーリヤンが、ゴウラヴを追いかけることになる。

比喩ではなく、実際に走って追いかけるのだ。タキシードで走るシャールク! 素晴らしい。
1人孤独に追いかけるんじゃなくて、警察にしっかり通報してつかまえてもらいなよーというツッコミは、ヤボである。アーリヤンとゴウラヴが直接対決するところを、みんな観たいのだから!

ゴウラヴは、アーリヤンなしでは生きられない。宿主を離れては死んでしまう寄生虫のように。
しかし、仮にゴウラヴをファンの代表とすれば、ではあるが、アーリヤンもまた、ゴウラヴがいなければ生きられないのだ。

大スターと、一般のファン。輝く光と、陰鬱な闇。本物と、模倣。潔白と、罪悪。
本来は対になって調和がとれるはずの2つの要素が、均衡をくずし反目し合う。

目の前の画面でケンカをしている2人、逃げる側も追う側も、同じ顔をしている。だんだんと、1人の人間の内面の葛藤としても見えてくる。

相手を駆逐するのか、されるのか。従えるのか、ひざまずくのか。それとも、和解して握手を交わすのか。関わり合わずに交わらない人生を生きる、という道もあるかもしれない。

さて、この激しい葛藤の行方は、一体どうなるのだろうか。ぜひ、目撃してもらいたい。

(text:西田志緒)



『ファン』


原題:Fan
2016/ インド/ 138分

作品解説

最高のファンが最悪の敵に!「ボリウッド・キング」シャールク・カーンが、自身の投影のようなスーパースターと、特殊メイクでその狂信的な「ファン」の二役を演じるスリラー。二人のどちらに感情移入するかで、作品の見方が大きく変わる。
デリーの下町に暮らす青年ゴウラヴは、映画界のスーパースター、アーリヤン・カンナーの熱狂的ファン。ある出来事をきっかけに、ゴウラヴはアーリヤンと念願の対面を果たすが、アーリヤンに「お前は俺のファンなんかじゃない」と拒絶される。その日からゴウラヴはアーリヤンを狙うストーカーへと変貌していく。

キャスト

シャールク・カーン
ワルーシャー・デスーザ
シュリヤー・ピルガオーンカル
サヤーニー・グプター

スタッフ

監督:マニーシュ・シャルマー

©Indian Film Festival Japan 2016



インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン(IFFJ2016)


日本未公開の最新インド映画を上映。インドと日本、両国の人々の交流と友好を深めることを目的とした映画祭。東京会場は、2016年10月7日(金)~10月21日(金)まで、ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催。大阪会場は、2016年10月8日(土)~10月21日(金)まで、シネ・リーブル梅田にて開催。

開催期日/場所


東京:10月7日(金)~10月21日(金)/ ヒューマントラストシネマ渋谷
大阪:10月8日(土)~10月21日(金)/シネ・リーブル梅田

公式ホームページ
http://www.indianfilmfestivaljapan.com/index.html

タイムテーブル
http://www.indianfilmfestivaljapan.com/schedule.html

©Indian Film Festival Japan 2016


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【執筆者プロフィール】

西田志緒:Shio Nishida

東京都在住。2015年1月~4月にかけて、第二期「シネマキャンプ」映画批評・ライター講座を受講。『ことばの映画館』にて執筆。

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