2016年12月14日水曜日

アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016 アンコール!



<2016アピチャッポン・イヤー>を締めくくる、アピチャッポン・ウィーラセタクンの特集上映がアンコール開催!

その名も「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016 アンコール!」

(2016年12月17日よりシアター・イメージフォーラムにて開催されます)

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<2016アピチャッポン・イヤー>のラストを飾る特集上映。

『ブンミおじさんの森』(2010)で2010年カンヌ国際映画祭・パルムドール(最高賞)に輝いたタイの天才監督にして美術作家でもあるアピチャッポン・ウィーラセタクン。今年は1月に幻の傑作『世紀の光』(2006)初公開と特集上映<アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016>が開催され、3月には最新作『光りの墓』(2015)の公開、また、各地での展覧会やワークショップや「さいたまトリエンナーレ2016」への参加、きたる12月13日からは東京都写真美術館での個展スタートと、映画に美術にまさに<アピチャッポン・イヤー>。そしてそのラストを飾るのが本特集上映<アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016アンコール!>です。


全長編作と貴重な共同監督作や関連作も上映し、さらに多面的に。

今回は、これまでの全劇場長編作とともに、単独監督作とはまったく違う異色の共同監督作であるモンド西部劇ミュージカルコメディ『アイアン・プッシーの大冒険』(2003)を上映。さらに関連作として、アピチャッポンの故郷でありその映画の主な舞台であるタイ東北部イサーン地方を描いたタイ映画史に輝く名作『トーンパーン』(1976)、『東北タイの子』(1982)も上映。全9作を上映し、より多面的により深く、アピチャッポンの映画世界に触れることができます。



アピチャッポン監督も来場。何回見ても発見がある作品群をぜひスクリーンで。

また、開催期間中には監督本人が来場し、舞台挨拶やQ&Aも予定。上映作品を網羅したパンフレットも販売される。映画館の闇は、アピチャッポンが繰り返し描くタイ東北部イサーン地方の森へとつながるタイムマシーン。闇の中に身を沈め、ふと目を覚ませばアピチャッポンと森を彷徨っている、そんなスリリングな体験を映画館でぜひ!

12/13からは東京都写真美術館の個展。12/17からは本特集上映。美術を見てから映画を見るか、映画を見てから美術を見るか。<2016年アピチャッポン・イヤー>のラストにふさわしくたっぷりとお楽しみください。

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上映作品解説


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①『真昼の不思議な物体』 

原題:Mysterious Object at Noon

2000年|タイ|83分|モノクロ|35mm

山形国際ドキュメンタリー映画祭インターナショナル・コンペティション 最優秀&NETPAC特別賞受賞/全州国際映画祭グランプリ受賞


©Kick the Machine Films  提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭


タイ東北部の村で行商人の女性が、撮影クルーに促され、一つの架空の物語を語り始める。その続きを象使いの少年たち、伝統演劇の劇団員たちなど、様々な人々がリレー形式で即興的に語り継ぎ、物語は二転、三転しながら思わぬ方向に進んでいく。驚くほどの自由なイマジネーションと同時に緻密に考えられた構成で、世界を仰天させた記念すべき長編初監督作品。

提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 
協力:一般社団法人コミュニティシネマセンター


奥平 詩野
映画『真昼の不思議な物体』評 

今泉 健
映画『真昼の不思議な物体』評 

井河澤 智子
映画『真昼の不思議な物体』評

長谷部 友子
映画『真昼の不思議な物体』評 

髙橋 雄太
映画『真昼の不思議な物体』評


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②『ブリスフリー・ユアーズ』 

原題:Blissfully Yours

2002年|タイ|125分|カラー|35mm

カンヌ国際映画祭ある視点賞/東京フィルメックス映画祭最優秀作品賞/テサロニキ映画祭グランプリ/ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭監督賞&国際批評家連盟賞ほか

©Kick the Machine Films  提供:Kick the Machine Films

ミャンマーからやって来た不法労働者のミン、そのガールフレンドの若い女性ルン、ミンを何かと気づかう中年女性オーン。ミンとルンとは森の中をさまよいながらひと時を一緒に過ごす、偶然同じ時に不倫相手と森に入ったオーンは姿を消した相手の男を探すうちにミンとルンと遭遇する。ジャン・ルノワール監督の不朽の名作『ピクニック』にもたとえられた至福の映画。

提供:Kick the Machine Films 
協力:一般社団法人コミュニティシネマセンター


高橋 秀弘
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評

井河澤 智子
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 

大久保 渉
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 

岡村 亜紀子
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 


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③ 『アイアン・プッシーの大冒険』

原題:The Adventure of Iron Pussy

2003年|タイ|90分|カラー|デジタル

監督:マイケル・シャオワナーサイ、アピチャッポン・ウィーラセタクン


©Kick the Machine Films  提供:GMM GRAMMY Public Company Limited

フィラデルフィア生まれのタイ人現代美術アーティスト、マイケル・シャオワナーサイとの共同監督作。シャオワナーサイ扮する女装のスパイ“アイアン・プッシー”は、怪しい富豪の屋敷にメイドとして潜入。大騒動をまきおこす。他のアピチャッポン作とは全く違う、ツッコミどころ満載の“モンド西部劇ミュージカルコメディ”。自身は、ビデオアート・プロジェクトの一つと位置づけ、要所要所のショットにアピチャッポンらしさを発見するのも楽しい。

提供:GMM GRAMMY Public Company Limited
協力:boid

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④『トロピカル・マラディ』 

原題:Tropical Malady

2004年|タイ、フランス、イタリア、ドイツ|118分|カラー|35mm

カンヌ国際映画祭審査員賞/東京フィルメックス映画祭最優秀作品賞/サンパウロ国際映画祭批評家賞/カイエ・デュ・シネマ2004年ベスト1ほか


©Kick the Machine Films  提供:Tamasa Distribution

愛し合う二人の青年の日常がみずみずしく描かれる前半から、一転、不穏な空気に包まれる後半。冒頭には日本の作家、中島敦の「山月記」の一節が引用され、アピチャッポン作品を貫く重要な要素の一つである“変容”が最も顕著に表現されている。観客に森の中に迷い込んだかのような感覚を与える撮影と音響は圧巻。カイエ誌ベスト1にも輝いた傑作。

提供:Tamasa Distribution 
協力:一般社団法人コミュニティシネマセンター

長谷部 友子
映画『トロピカル・マラディ』評

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⑤『世紀の光』 

原題:Syndromes and a Century

2006年|タイ、フランス、オーストリア|105分|カラー|DCP

ヴェネチア国際映画祭公式出品/ドーヴィル・アジア映画祭グランプリ/フリブール国際映画祭スペシャル・メンションほか


©Kick the Machine Films  提供・配給:ムヴィオラ

今年日本で初公開された、ファンの間で特に人気が高い作品。映画は2つのパートに分かれ、前半は地方の緑豊かな病院、後半は近代的な白い病院が舞台となる。登場人物の多くも重なり、医師の恋の芽生えなどのエピソードは2つのパートで反復され、夢見ているような奇妙な感覚に誘われる。撮影中に多くのスタッフが恋に落ちたというエピソードを持つ、“微笑み”と“驚き”の傑作。

提供・配給:ムヴィオラ


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⑥『ブンミおじさんの森』 

原題:Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives

2010年|イギリス、タイ、ドイツ、フランス、スペイン|114分|カラー|35mm

カンヌ国際映画祭パルムドール/アジア・フィルム・アワード最優秀作品賞/カイエ・デュ・シネマ2010年ベスト1ほか

©Kick the Machine Films  提供:シネマライズ 配給:ムヴィオラ

腎臓の病に冒され、死を間近にしたブンミは、妻の妹ジェンをタイ東北部の自分の農園に呼び寄せる。そこに19年前に亡くなった妻が現れ、数年前に行方不明になった息子も姿を変えて現れる。やがて、ブンミは愛するものたちとともに森に入っていく。美しく斬新なイマジネーションで世界に驚きを与えた、カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞作。

提供:シネマライズ 配給:ムヴィオラ



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⑦『光りの墓』 

原題:Cemetery of Splendour

2015年|タイ、イギリス、フランス、ドイツ、マレーシア|122分|カラー|DCP

カンヌ国際映画祭<ある視点>部門出品/アジア太平洋映画賞最優秀作品賞/国際シネフィル協会賞最優秀未公開映画賞ほか


© Kick The Machine Films / Illuminations Films (Past Lives) / 
Anna Sanders Films / Geißendörfer Film-und Fernsehproduktion /
Match Factory Productions / Astro Shaw (2015) 

提供・配給:ムヴィオラ


タイ東北部。かつて学校だった仮設病院。原因不明の“眠り病”にかかった兵士たち。ある日、病院を訪れたジェンは、前世や過去の記憶を見る力を持った若い女性と知り合い、その病院の場所が、はるか昔に王の墓であったと知り、兵士たちの眠り病に関係があると気づく。映画作家としてのさらなる進化を感じさせ、またタイの政治状況に対する想いも込められた傑作。

提供・配給:ムヴィオラ


長谷部 友子(寄稿・neoneoWEB)
映画『光りの墓』評

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関連上映作品


アピチャッポン映画にとって、その故郷タイ東北部イサーン地方は特権的な場所。かつてカンボジアとラオスという異なる帝国から成り立ち、バンコクとは全く違う文化を持っていたイサーン。貧しい地域であり、60〜70年代にはその森に共産主義が逃げ込み、共産主義者狩りの舞台ともなった場所。
アピチャッポンの土地の記憶を掘り下げる為に、ぜひとも見ておきたいタイ映画史の名作2本が上映されます。


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⑧『トーンパーン』

原題:Tongpan

1976年|タイ|63分|モノクロ|デジタル

監督:スラチャイ・ジャンティマートン、パイジョン・ライサグン、ユッタナー・ムクダーサニット


© The Isan Film Group  提供:Multimedia Thailand


75年に実際にあったダム建設問題をドラマ化したドキュ・ドラマ的な白黒16mm作品。ダム建設で土地を失った農夫のトーンパーンは妻と2人の息子を抱え、ムエタイの試合に出たり、サムロー(人力三輪車)の運転手をして何とか暮らしていたが……。民主化運動が高まった当時、共産主義者が逃げ込んだイサーンが舞台なので、政府により上映が禁止になったという問題作だが、イサーン農民の貧しさ、町の風俗などのリアルで詩情ある描写は必見。後年、『メナムの残照』などを残した巨匠ユッタナー・ムクダーサニットの貴重な初期作でもある。

提供:Multimedia Thailand 
協力:boid

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⑨『東北タイの子』

原題:A Son of the Northeast

1982年|タイ|130分|デジタル

監督:ウィチット・クナーウット 原作:カムプーン・ブンタウィー


© Five Star Production Co., Ltd.  提供:Five Star Production

東北タイに生まれ、行商人、日雇い労働、刑務所の獄吏など様々な職を経て作家となり、晩年は国民的作家となったカムプーン・ブンタウィーの同名小説の映画化。当時タイで大ヒットし、映画賞も独占した。干上がった地で貧しく暮らすイサーン農民が、遠く離れた川まで魚を獲りに牛車のキャラバンで旅に出る姿を描く。見所は何と言ってもイサーンの知られざる生活風景、日本の伝承話にも通じる大らかな性の描写も素晴らしい。83年にマニラ映画祭で審査員だった大島渚が絶賛したのも納得の傑作。

提供:Five Star Production 
協力:boid

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アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016アンコール!

開催日程
2016年12月17日(土)~1月13日(金)<4週間>

会場
シアター・イメージフォーラム 
(東京都渋谷区渋谷2-10-2)

上映作品
『真昼の不思議な物体』『ブリスフリー・ユアーズ』『アイアン・プッシーの大冒険』
『トロピカル・マラディ』『世紀の光』『ブンミおじさんの森』『光りの墓』(以上アピチャッポン監督作)

関連上映
『トーンパーン』(ユッタナー・ムクダーサニットほか監督)、『東北タイの子』(ウィチット・クナーウット監督)

公式ホームページ
http://www.moviola.jp/api2016/woods2/index.html

監督トークイベント
12月19日(月)15:30の回『光りの墓』上映後&18:30の回『世紀の光』上映前
*トークの日時はやむを得ぬ事情により変更となる場合があります。

配給
ムヴィオラ:http://www.moviola.jp

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【ことばの映画館の批評家による<アピチャッポン監督作品>映画評一覧】


井河澤 智子
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 
映画『真昼の不思議な物体』評 

今泉 健
映画『真昼の不思議な物体』評 

大久保 渉
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 

岡村 亜紀子
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 

奥平 詩野
映画『真昼の不思議な物体』評 

佐藤 奈緒子
映画『世紀の光』評 
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評

高橋 秀弘
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評

高橋 雄太
映画『世紀の光』評 
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 
映画『ブンミおじさんの森』評
映画 アートプログラム<中・短編集>評
映画『真昼の不思議な物体』評

長谷部 友子
映画『トロピカル・マラディ』評
アートプログラム『国歌』評 
映画『真昼の不思議な物体』評 
映画『世紀の光』評 
映画『ブンミおじさんの森』評
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評

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【寄稿・ドキュメンタリーマガジンneoneo・ウェブサイト「neoneo web」】

長谷部 友子
「あなたに起きていてほしい」-アピチャッポン・ウィーラセタクン監督『光りの墓』

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2016年12月10日土曜日

映画『幸せなひとりぼっち』評textミ・ナミ

「幸せな人生のしまい方」


主人公のオーヴェはいつも不機嫌である。頼まれもしない町内の見回りに毎日躍起となって、規則を守らない住人を追いかけ回しては小言ばかりだ。最近はホームセンターのレジ係を説教して、周囲の反感を買っていた。妻のソーニャは半年前に亡くなり、ある日、長年勤めた鉄道局からもとうとう解雇される。オーヴェは意外と小心なので、悲観のあまり思わず首を吊ろうとしたその瞬間、新しく隣へ越してきた家族の騒々しさに、飛び出して行って怒鳴り散らす。以来、イラン移民の女性で快活な妊婦パルヴァネは何かとオーヴェを頼り、ペルシャ料理を振る舞う。彼女のちょっぴりドジな夫、二人の娘もフレンドリーに接する。オーヴェの気持ちはその後も死へと傾き、そのたび周りの騒々しさに邪魔される(しまいにネコまで転がり込む!)が、次第に凍った心には灯がともっていく。ある時、オーヴェはパルヴァネに、自分のこれまでの人生を打ち明ける。幼い頃の母の死。寡黙だが愛情深い父の思い出。人生の信条が決まった青年時代。最愛の妻ソーニャとのまぶしい日々。そして、夫婦の運命を大きく変えたあの日のことーー。

©Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.


オーヴェの自殺未遂だけでなく、かつて町長選や自家用車の車種をめぐって小競り合いを繰り広げた友人ルネは、今や難病で笑うことすら困難であるなど、この映画には影の部分も多い。だがたとえばオーヴェの自殺は、習い性の癇癪でいつも失敗に終わるなどギリギリなコメディになっていて、悲壮な印象はなく思わず吹き出してしまう。このあたりのさじ加減に、多くのコメディ映画の脚本と演出をつとめてきたというハンネス・ホルム監督の手腕が大いに発揮されているのだろう。

©Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.

パルヴァネはオーヴェに頼み込み、自動車の運転を習得しようと奮闘するが、公道での練習の際に軽いパニックを起こしてしまう。オーヴェはそこで、こんな風に言って聞かせる。あなたは多くの困難と苦労を乗り越えて、さらに車の運転まで覚えようとしている。自信を持ちなさい、と。融通が利かないオーヴェだが、周囲に流されて「規範」からはみでることを嫌う性分なだけなのだ。彼のパルヴァネへの叱咤は、表面的に優しい言葉よりもずっと暖かい。そもそもこの映画そのものが、不寛容とは無縁の世界のありようを指し示している。劇中人物たちが宗教や性別、民族やセクシャリティ(性的指向)の隔てを越え、自分とは異なる存在を理解し合い、連帯する姿が描かれている本作は、誰かへの不寛容さばかりが充満した現代諸相への、ささやかだがずしりと重たいカウンターパンチのようだ。

スウェーデンの伝統的国産車サーブのエンジンを眺めながら、オーヴェの父は「車が動くというのは、そう簡単な仕組みではない」と息子に語りかけた。本作に沿って言い換えるなら、「人間が生きるというのは、そう簡単な仕組みではない」。その「生きる」というのは、ただ人間の心臓が動き、呼吸するというフィジカルな意味だけでないように感じる。命ある者の行き着く先が必ず死であるならば、それを悲しむべきものとしてではなく、過ぎ去った生の時間を喜びながら終わっていくのが、幸福というのだろう。過去の怒りと悲しみに沈みきったまま死を迎えようとしたオーヴェを、幾度となく「生かした」、さしのべられた手。それはきっと、パルヴァネのものだけではなかったはずだ。

©Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.


頑固オヤジの愛され度:★★★★★
(text:ミ・ナミ)



『幸せなひとりぼっち』

2015年/スウェーデン/カラー/DCP5.1ch/シネマスコープ/116分/
原題:EN MAN SOM HETER OVE
スウェーデン語・ペルシア語/字幕翻訳:柏野文映/後援:スウェーデン大使館

作品解説
スウェーデン映画史上記録的大ヒット!国民の5人に1人が観た国民的映画

「人は一人で生きられるのか」を問う感涙必至のヒューマンドラマ

2015年のクリスマスにスウェーデンで封切られると、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)を抑え、興行成績1位にランクイン。その後、公開5ヶ月を越える大ロングランになっただけではなく、世界17ヶ国での公開も決定し、ドイツやノルウェー、韓国でもヒットを飛ばしている。そんな本作の主人公は、頑固な老年男・オーヴェ。いつも不機嫌で人付き合いの苦手な彼が、隣人一家と交流する姿を通して、「人は一人で生きられるのか」「人生とは何か」を問うヒューマンドラマ。自らの正義を貫く彼だからこそ迎えられた幸せな結末は、多くの観客の胸を打ち、スウェーデンのアカデミー賞と言われるゴールデン・ビートル賞で主演男優賞と観客賞をダブル受賞!北欧発の感動作がいよいよ日本に上陸。

キャスト

オーヴェ:ロルフ・ラスゴード
オーヴェ(青年時代):フィリップ・バーグ
ソーニャ:イーダ・エングヴォル
パルヴァネ:バハー・パール

スタッフ
脚本/監督:ハンネス・ホルム  
原作:フレドリック・バックマン  
撮影:ゴラン・ハルベルグ
編集:フレドリック・モルヘデン  
音楽:ガウト・ストラース  
製作:アニカ・ベランデル
配給・宣伝:アンプラグド

劇場情報
2016年12月17日(土) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

公式ホームページ
http://hitori-movie.com/

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【執筆者プロフィール】

ミ・ナミ:MI nami

架空の居酒屋「ミナミの小部屋」店主にして映画記者、もしくは映画館映写係。
「韓国映画で学ぶ社会と歴史」(2015年、キネマ旬報社)に寄稿。
韓国映画の情報サイト「シネマコリア」でも定期的に執筆中。@33mi99http://twitter.com/@33mi99


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2016年12月9日金曜日

『カレーライスを一から作る』評text高橋 雄太

「カレーライスから考える 」


カレーライス。おそらく日本で最も一般的な料理の一つだろう。

カレーライスは多くの店で提供されており、また特に料理好きでない私でも、食材とルーを買って作ることがある。だが、スーパーで売られているのは収穫済みの野菜であり、動物の形態を残していない肉である。市販のルーを眺めても、それがどのように作られたのか、その中に何が含まれているのか、想像することは難しい。お店で食べれば、調理の過程もわからない。よく知っているようで、よく知らないカレーライス。このありふれた料理が、私たちの生について考えるきっかけになる。

映画が追うのは、医師であり「グレートジャーニー」の探検家としても知られる関野吉晴氏が、武蔵野美術大学で担当するゼミである。関野は、学生たちとともにカレーライスを一から作ることを目指す。すなわち、田んぼで米を、畑で野菜やスパイスを、海から塩を、土から器を作り、飼育小屋で動物(ホロホロ鳥と烏骨鶏)を育てる。

私たちが、「作らない」ことで手にした利便性、効率性、お手軽さ。それらを一旦捨て、自分たちの手で作る。自分たちの身の回りにあるものがどこから来るのか。人や社会がどのように私たちとつながっているのか。それを知ることが生きる力になると、関野は語る。「カレーライスを一から作る」ことは、カレーライスだけでなく、私たちの生活の源泉を遡ることでもあるのだ。

農業にも飼育にも不慣れな学生たちは悪戦苦闘し、葛藤する。関野ゼミの畑に比べ、化学肥料を使う他の畑の方が野菜の生育が早い。ゼミ生の一人は化学肥料を使うべきか悩み、結局は堆肥のみとする。「作る」作業であるはずの農業にも、自分たちで「作らない」化学肥料という手段がある。さらに、私を含め農業をしない多くの人々は、食糧に関してはほぼ自ら作ることがない。他人の作ったものに支えられ、何重もの利便性を享受して生きている。関野ゼミでは「作らない」を「作る」にしていくことで、現代の生活を支えるものをゼミ生たちに、そして私たちに自覚させていく。

動物の飼育からも見えてくるものがある。予定通り鶏肉入りのカレーライスを作るためには、飼育した動物を屠る必要がある。学生たちは手作りで小屋を作り、餌を与え、様子をノートにつけるなど、丁寧な飼育をしてきた。鳥の方でもゼミ生になついているようで、膝や肩に乗ってくる。 「かわいいから殺したくない」、「食べ物として育てたのだから屠る」など議論を交わした末、ゼミ生たちは鳥を屠る。

解体された鳥の体内には、餌となった植物が残っている。人間はその鳥を食べる。人間も他の動物も、いのちを食べて生きているのだ。その「いのち」を「かわいいペット」や「食べ物」とみなすことは、人間が勝手に決めることである。また、関野がゼミ生に指摘するように、同じ「いのち」であるはずの動物と植物を区別することも人間の都合である。「いのち」とともに生きること。それは「いのち」を犠牲にすることもあり、愛することもあるという人間の立場、身勝手さを自覚することなのかもしれない。

さて、揚げ足をとるつもりはないが、ゼミの活動は厳密には「一から」ではない。包丁、鍋、鳥の雛、植物の種子などは、ゼミの外部から入手したものである。「カレーライスを一から作る」ことの前に、「一から」以前がある。このことから、私たちが「一から」生きるのが難しいことに気づかされる。まして、分業も都市化も進み、土や動物に触れることも少ない現代の日本では、なおさら難しいだろう。かく言う私も、農業や飼育の経験はない。この映画を見て、貴重な経験をするゼミ生たちを羨ましく思った。せめて、生活を支えるものと自分たちの立場を想像することにしよう。

最後に完成したカレーライス。実際の味はともかく、見ていると食欲をそそられる。鑑賞後の私の食事はカレーライスだった。もちろん鶏肉入り。

(text:高橋雄太)





『カレーライスを一から作る』

2016/96分/日本 


作品情報
医師であり探検家でもある関野吉晴氏が、武蔵野美術大学で開催した「関野ゼミ」。その内容は「カレーライスを一から作る」こと。本作はカレーライスが「一から」出来上がるまでの記録したドキュメンタリー映画である。

スタッフ
監督:前田亜紀
プロデューサー:大島新
音楽:U-zhaan

劇場情報
ポレポレ東中野にて公開中〜12月16日まで延長決定!

公式ホームページ
http://www.ichikaracurry.com


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【執筆者プロフィール】

高橋雄太:Yuta Takahashi

1980年生。北海道出身。映画、サッカー、読書、旅行が好きな会社員。映画祭のシーズンも終盤ですね。今シーズン見た中では東京国際映画祭の『ノクトラマ/夜行少年たち』、東京フィルメックスの『モンテ<山>』が特に好きです。

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