2017年2月15日水曜日

映画『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』評text長谷部 友子

洞窟に響く拍手



真っ赤なドレスを着て激しくステップを踏むことをイメージしているとしたら、少し違う。サクロモンテのフラメンコはそのような高速の激しさはなく、緩やかに腕を回す。けれどそこには情動がある。
みな口を揃えて言う。自力で学んだ、教えてもらったりはしない、見ることは簡単で、そこから受け取ったのだと。そしてそれは自然と生まれてくるものだと。
芸術とはなんだろう。身体芸術、舞踊など特にそうだが、ストイックな肉体維持が不可欠で、その厳格さや禁欲が称揚される。
「踊れたら心が穏やかになる。」ある男性が言っていた言葉が印象的だった。彼は病ゆえに手足が震え、今は踊ることはできないのだけれど。
日常からかけ離れた場所にではなく、今の穏やかな生活の中に芸術があると彼らは知っている。生活において踊りを愛し、みなが互いの踊りを見る。互いを讃え拍手を送る。それは何も踊りに限ったことではないだろう。サクロモンテの人たちは水害により故郷を失い、住む場所を追われ、檜舞台すら失くしてしまった。どれほど厳しく貧しい状況でも、他者を讃え拍手を送ることのできる人間の人生は豊かだ。

(text:長谷部友子)




『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』
原題:Sacromonte: los sabios
2014年/94分/スペイン/カラー/スペイン語/ドキュメンタリー/16:9/ステレオ

作品解説
スペイン・アンダルシア地方・グラナダ県サクロモンテ地区。
この地には、かつて迫害を受けたロマたちが集い、独自の文化が形成されていった。ロマたちが洞窟で暮らしていたことから洞窟フラメンコが生まれ、その力強く情熱的な踊りや歌に、世界中が熱狂した。隆盛をきわめたサクロモンテだが、1963年の水害により全てを失い、人々は住む場所を追われた――。
本作は、伝説のフラメンコ・コミュニティに深く入り込み、激動の時代を生き抜いてきたダンサー、歌い手、ギタリストなどのインタビュー、そしてアンダルシアの乾いた大地を舞台に繰り広げられる詩の朗読、そして力強い舞の数々を通して、大地に根付く魂が紡がれ、代々引き継がれていくさまを描く。

スタッフ
監督:チュス・グティエレス
参加アーティスト:クーロ・アルバイシン、ライムンド・エレディア、ペペ・アビチュエラ、ハイメ・エル・パロン、フアン・アンドレス・マジャ、チョンチ・エレディア、マノレーテ他多数

配給・宣伝
提供:アップリンク、ピカフィルム 
配給:アップリンク 
宣伝:アップリンク、ピカフィルム
後援:スペイン大使館、セルバンテス文化センター東京、一般社団法人日本フラメンコ協会

劇場情報
2017年2月18日(土)より有楽町スバル座、アップリンク渋谷ほか全国順次公開

公式ホームページ
http://www.uplink.co.jp/sacromonte/

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【執筆者プロフィール】

長谷部友子 Tomoko Hasebe

何故か私の人生に関わる人は映画が好きなようです。多くの人の思惑が蠢く映画は私には刺激的すぎるので、一人静かに本を読んでいたいと思うのに、彼らが私の見たことのない景色の話ばかりするので、今日も映画を見てしまいます。映画に言葉で近づけたらいいなと思っています。

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